メディコンパス/2020年12月取材:About the treatment of chronic pain

大阪なんばクリニック院長/痛みの治療センター長
森本 昌宏 先生に聞く ペインクリニックの最前線

従来の医療では対応しきれない慢性的な痛みを治療する


医療法人社団 新生会 大阪なんばクリニック院長/痛みの治療センター長
元 近畿大学医学部麻酔科学教室教授/医学博士/大阪医科大学大学院修了
森本 昌宏 先生
Masahiro Morimoto M.D.,Ph.D.
 

【 専門分野 】
ペインクリニック

● 日本ペインクリニック学会専門医
● 日本麻酔科学会指導医
● 日本東洋医学会指導医
● 日本慢性疼痛学会専門医

日本ペインクリニック学会名誉会員、日本在宅医療学会名誉会員
日本疼痛学会功労会員、日本慢性疼痛学会理事
2013年度 日本在宅医療学会会長、2015年度 日本ペインクリニック学会会長、2018年 日本慢性疼痛学会会長

【 Profileプロフィール 】
1980年 金沢医科大学医学部卒業
大阪医科大学麻酔科学教室入局
1984年 大阪医科大学麻酔科学教室助手
1991年 大阪医科大学麻酔科学教室外来医長
1993年 大阪医科大学麻酔科学教室講師
1996年 近畿大学医学部麻酔科学教室講師
2005年 近畿大学医学部麻酔科学教室准教授
2010年 近畿大学医学部麻酔科学教室教授
2019年 大阪なんばクリニック本部長
2020年 大阪なんばクリニック院長兼任
(祐斎堂森本クリニックにおいても診療中)

 

頭痛、腰痛、膝の痛み…。「痛み」は極めて身近で、日常的な感覚です。
ある統計では成人の15~40%が慢性的な痛みを抱えていて、70歳以上では約半数が日常的な痛みに悩まされているとするデータがあります。
ところで、この痛み、相当に厄介な代物です。なぜなら、痛みは本人にしか分からない感覚だからです。なおかつ、痛みには必ず「辛さ」という感情、情動が付きまといます。そのために、慢性的な痛みを抱えながらも、家族や友人、さらには医師にさえも理解してもらえずに、日々、孤独な闘いを続けておられる方も少なくありません。
痛みがあれば愉快な気分になれるはずはありません。不安になり、怒りがちになって、他人への気配りを忘れたりもします。放っておけば、自分が辛いだけでなく、周囲の人まで憂鬱にしてしまうこともあります。それだけでなく、痛みの根っこには、深刻な病が潜んでいることも。
痛み治療の第一人者で、近畿大学医学部教授を務め、2020年、大阪なんばクリニック院長に就任された森本昌宏先生に、痛みとペインクリニックについて、分かりやすく解説していただきました。

ペインクリニックとは

ペインクリニックとは、従来の医療では十分に対応しきれない痛みをはじめ、体のさまざまな不調を専門的に扱う医療部門です。
担当しているのは、主に麻酔科医になります。
麻酔科は、手術中や術後の痛みを軽減するために生まれた診療科目ですが、その後、外来でも痛みの治療を手がけるようになり、医学の専門分野として発展してきました。

ペインクリニックの歩み

ペインクリニックは、コロンビア大学のルーベンスタイン医師が、1930年代にさまざまな局所麻酔薬を痛みの治療に応用したことに始まります。医療部門としての確立の立役者は、ワシントン大学のジョン・J・ボニカ教授です。
ボニカ教授は、苦学生時代にプロレスラーのアルバイトをしていたことから、あちこちの古傷の痛みに悩まされていました。そこで、自身の体を実験台にして、痛みに関連する部位(トリガー・ポイントと呼ばれる圧痛点であり、東洋医学でのツボに一致することが多い)に局所注射を行ってみたところ、難治性の痛みが劇的に軽くなることを発見しました。この経験をもとに、未開拓であった痛みの治療に、局所麻酔で痛みをなくす「神経ブロック療法」を用いることを提唱したのです。

日本におけるペインクリニックの始まり

わが国においては1963年、東京大学付属病院で「麻酔科外来」として産声を上げました。続いて66年、私の恩師の兵頭正義先生が大阪医科大学に専門外来を開設し、それまでの神経ブロック療法に加え、東洋医学的なアプローチ(鍼灸治療や漢方薬の投与)の併用を提唱し、日本のペインクリニックを牽引しました。
私は兵頭教授が主宰される医局に入局して、その驚異的な治療効果を目の当たりにし、これを専門にしようと決意しました。注射で即座に痛みがとまるのです。麻酔科医になって2年目のことでした。

 

慢性痛は単なる病気の症状ではなく、独立した症候群と考えられます

痛みとは何か

医学の歴史は痛みとの闘いの歴史であり、痛みと対峙することは医療の原点と言えます。
従来、「痛みは病気の一症状」「病気を治せば、痛みも自然にとれるはず」と考えられてきました。確かに原因となる病気が治ると、なくなってしまう痛みもあります。しかし、痛みに対して早期に適切な治療を施さずに放っておくと、大変なことになる場合もあります。
痛み情報は、大脳辺縁系(脳の一部で、感情、欲求などにも関わることから〝情動脳〟とも呼ばれている)に悪影響を与え、その結果、感情に変化が起こり、不安を生じます。また、脳や脊髄の細胞に痛みが記憶され、「遺伝子修飾」という変化を引き起こして、さらに痛みをこじらせてしまうこともあるのです。

主観、情動としての痛みの深層

痛みのメカニズムの研究は、さまざまな領域で進められてきました。
末梢神経にある痛み情報の受け皿(受容体と呼ぶ)や、その情報(インパルス)を脳にまで伝える神経回路、神経間での情報の受け渡しを担う物質(伝達物質)、痛みを認識する脳の部位(投射部位)などが明らかにされつつあります。
しかし、すべてが解明されているわけではありません。主観、情動としての痛みの深層を客観的にのぞき込むには、多くの壁があるのも事実です。
その人が痛みを感じ、辛いと思っている個人的な情緒的状態に加えて、周囲の状況、社会的な影響の大小も考慮しなければ、その本質は見えないのです。

「急性痛」と「慢性痛」

痛みは、「急性痛」と「慢性痛」の2つに分けられます。指を切ったり、火傷したときに起こる急性痛は、身の回りにあるさまざまな危険から私たちを守ってくれる警告信号であり、「生理的な痛み」です。
それに対してペインクリニックを受診される患者さんの多くを悩ませている慢性痛は、人間にとって必要のない「病理としての痛み」です。
急性痛は「原因がなくなれば、消える痛み」であり、慢性痛は「原因がなくなっても、消えない痛み」と言えます。したがって、急性痛が長期間にわたって続いても、それは慢性痛ではありません。痛みの原因がなくなっていなければ、その痛み(関節リウマチによる痛みなど)は急性痛なのです。
一方で、慢性痛は、過去に末梢神経や中枢神経系が何らかの障害を受け、さらには自律神経系が異常を起こしている状況下で作り出されます。つまり、痛みに対する感受性が高まっている状態です。慢性痛は意欲の低下、食欲不振、不安やうつを引き起こし、その結果、自分の殻のなかに閉じこもってしまうこともあります。
慢性痛を持つ患者さんに機能的MRI(核磁気共鳴画像)による画像分析を行うと、中脳辺縁系と関係する「扁桃体(注)」に質的な変化がみられます。
慢性痛は単なる病気の症状のひとつではなく、独立した症候群と考えるべきでしょう。
(注)扁桃体/不快、恐怖、不安、怒りといった〝マイナスの情動〟の発現の中心的な役割を担います。

「ゲートコントロール説」と痛みを和らげる体内のシステム

幼い頃、頭を机の角にぶつけ、「痛いの痛いの飛んでけ~」と母親におまじないをしてもらって頭をさすられていると、不思議に痛みが楽になった経験をお持ちではないでしょうか。
実はこうした痛い部位をさする、圧迫するといった無意識の動作は理にかなっていて、痛みの情報が脳へ伝わることを抑えてくれるのです。
この不思議は、1965年に発表された学説によって説明されています。それが「ゲートコントロール説」です。
どのような学説かを簡単に紹介すると、頭や向う脛をぶつけたことによる刺激は痛みの受け皿(侵害受容器)を興奮させます。その興奮は末梢神経によって脊髄の入り口(脊髄後角)へと運ばれ、脊髄を通って脳の痛みの中枢である視床、大脳皮質へと伝わりますが、その際、すべての情報が脳に伝えられるわけではありません。脊髄の入り口には門番が待ち構えていて、ゲートの開け閉めをしているのです。
この門番とは、膠様質細胞(こうようしつさいぼう)と呼ばれる神経細胞で、痛み情報の脊髄への伝達を調節しています。門番によってストップをかけられた痛み情報は、脳の痛み中枢に伝わらなくなるのです。
なお、慢性痛に悩まされていても、何かに集中していると痛みが軽くなるという経験をお持ちの方もおられるかと思います。このことは、脊髄の入り口以外にも、中枢神経系のいろいろな部位に門番が存在することを示唆しています。つまり、精神活動や記憶などによって、多くの門番が痛みを変化させているのです。
その他にもさまざまな痛みを和らげるシステム(生体内疼痛制御機構)が体には存在しています。「下行性抑制系」と呼ばれる脊髄の伝達経路や、痛みを軽減するエンドルフィンなどの化学物質の分泌などです。
現在のペインクリニックは、こうした痛みを和らげる体内のシステムにもアプローチをして治療を行っています。

ペインクリニックにおけるさまざまな治療法

ペインクリニックの根幹となるのは局所注射療法です。
注射と聞いただけでおよび腰になる方もいらっしゃるかもしれませんが、特殊な細い注射針を用いて刺激性の弱い薬液を注入するので、それほど痛くありません。
大阪なんばクリニックでは、「Cアーム」という透視装置による精度の高い安全な局所注射が可能となっています。X線透視下の画像をモニターに映し、正確に部位を特定して針を刺し、そこに直接薬を注入したり、高周波熱凝固法としてパルス波を流します。
ほかにも当クリニックでは、さまざまな最新治療を行うことができます。たとえば、痛みを和らげる体内の「下行性抑制系」の働きを活発にする脊髄刺激療法や、椎間板内治療です。
薬物療法では、通常用いる鎮痛剤のロキソニンではなく、鎮痛補助薬とされる抗てんかん薬、抗うつ薬を用いています。東洋医学療法による鍼灸、漢方薬の処方も行っています。
心身医学的療法や理学療法(リハビリテーション)も含めた治療法の導入によって、ペインクリニックの治療対象も広がっています。痛みだけにとどまらず、自律神経のアンバランスや心因性の要素が大きく関わる症状なども対象となります。

X線透視装置「Cアーム」を用いた神経根プロックについて説明する森本先生

神経ブロック注射

神経ブロック注射とは、局所麻酔薬を神経ないしその近くに注射し、痛みの伝達を一時的、または永久的に遮断する治療法です。
交感神経への注入では、縮んでいた血管が開いて、しびれや冷え、こりが軽快します。
薬液の持続効果は約60~90分間程度ですが、これらの治療を繰り返して行うと症状が永久に消えることもあります。
特に痛みを永久的に遮断する目的の際には、高周波熱凝固法や、神経破壊薬であるアルコールを用います。

トリガーポイント注射

局所注射療法ではトリガーポイント注射もよく行う方法です。
トリガーポイントとは、痛みなどの引き金になる部位で、東洋医学のツボとだいたい一致します。そこに注射をして痛みの伝達を遮断することを主目的とします。

脊髄刺激療法

脊髄刺激療法(下図)とは、痛みの伝達を遮断する方法の対極にある治療法です。
つまり、もともと体に備わっている痛みを抑える鎮痛経路に活力を与え、痛みを抑えるのです。
小手術による脊髄刺激療法は、その代表的な治療法で、心臓ペースメーカーのような小型の脊髄刺激電極を体内に植え込み、脳の痛み中枢から末梢に向かって「痛みを和らげなさい」という命令を伝える脊髄の伝達経路(下行性抑制系)を賦活させます。

椎間板内治療

椎間板内治療は、最近注目されている治療法です。椎間板性の腰痛などに対して背中から椎間板のなかに針を刺し、高周波熱凝固法で痛みの神経を凝固させます。専用の鉗子で椎間板を削って治療する方法も用います。

人間をみないと治療は成り立ちません

ペインクリニックは、人のこころと体の関わりを考えることから始まった医療であり、痛みをはじめとする体のさまざまな不調の原因を診断、治療し、つき合っていく〟診療科目です。注射で痛みだけをとれば解決するというものではありません。
痛みには、情動が関係します。痛いと思うのが感覚であり、それをつらいと思うのが情動です。つらさをやわらげるためには痛みだけではなく、人間をみないと治療は成り立ちません。
残念ながら、今でも「痛みは病気の症状のひとつに過ぎない」とする考えが残っています。加えて、わが国には我慢を美徳とする風潮が根強くあり、少々の痛みくらいで医者に行くのは…と考える方も多いようです。
しかし、痛みが激しくなれば体を動かすこともままならず、人間性を失ってしまうこともあります。長年痛みを抱えていると、心理的に問題が出てくることもありますから、私たちは診療にあたっては臨床心理士によるカウンセリングを併用しています。

「キュア」と「ケア」の視点

「肩の痛み」ひとつをとってみても、原因はさまざまであり、その部位だけを考えていては解決策は生まれません。総合的な視点で人間をみること、つまり全人的な医療が不可欠です。しかし、臓器別に専門が分かれた現代の医療においては、その点がないがしろにされているのかもしれません。
全人的医療とは、病気を臓器別に扱うのではなく、「キュア」と「ケア」の視点から人を診ます。キュアとは、病気そのものの治療であり、ケアとは患者さんの人生の質(クオリティ・オブ・ライフ)に配慮したトータルな医療を意味しています。私たちはこうした全人的な医療を目指したいと考えています。

大阪なんばクリニックとは

大阪なんばクリニックは、「なんばスカイオ」の9階に位置しています。清潔で広々としたワンフロアは、健診と外来のスペースがきちんと分けられていますから、健診も外来も気兼ねなく受けることができます。その上で、それぞれの機能は密接に連携しています。受診される皆さんにとって、健診と外来が同じクリニック内にあることのメリットはとても大きいと思います。
病気を早期発見し、早期治療する。そして高血圧や糖尿病などの生活習慣病をきちんとコントロールする。大阪なんばクリニックは、いわば身近な「かかりつけ医」のような存在であり、しかも、さまざまな高度専門医療にアクセスできる先進性を備えています。
整形外科においては再生医療にも力を入れています。MRI、CT、マンモグラフィーなどの診断機器も高精度のもので、とりわけがん治療においては、南東北病院グループが誇る最先端がん治療「陽子線治療」、「BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)」についての相談や治療後のフォローアップも可能です。
健診から日常の診療、いざというときの先進医療まで、私たちは皆さんが明るい気持ちで過ごせるようなクリニックを目指しています。大阪には〝お笑い〟の文化がありますから、私もペインクリニックの診療時には、患者さんから笑いをとるくらいの勢いで気楽におしゃべりをしています。
痛みや体の不調に悩んだら、ぜひ、大阪なんばクリニックでご相談ください。

現在連載中の記事
● ヨミドクター yomiDr. 森本昌宏「痛みの医学事典」 https://yomidr.yomiuri.co.jp/column/morimoto-masahiro/
● 産経新聞 掲載 「ドクター森本の痛みクリニック」 http://www.morimotoclinic.com/itami/index.html
 (祐斎堂森本クリニックホームページ内)

    [主な対象疾患]
    頭部・顔面/頭痛、三叉神経痛
    首・肩・腕/むちうち症、頸椎症、頸椎椎間板ヘルニア、肩こり、肩関節の痛み(五十肩、肩関節周囲炎)
     肘関節や手首の痛み(野球肘、テニス肘、手根管症候群)、腱鞘炎
    腰・足/腰痛、ぎっくり腰、腰椎椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、変形性股関節症、変形性膝関節症、こむらがえり
    全身/線維筋痛症、帯状疱疹痛、帯状疱疹後神経痛
    手術後の長引く痛み/遷延性術後痛、瘢痕性疼痛症候群、幻肢痛、断端痛
    その他の痛み/関節リウマチ、膠原病、痛風、悪性腫瘍による痛み、神経障害性疼痛(複合性局所疼痛症候群、視床痛)
     慢性動脈閉塞症、レイノー病、月経困難症、尿路結石症
    種々の疾患によるしびれ

□ 医療法人社団 新生会 大阪なんばクリニック

住所/大阪市中央区難波5-1-60 なんばスカイオ9F
◎ 南海なんば駅(南海各線)より約1分
◎ なんば駅(大阪メトロ御堂筋線)より約2分
◎ 大阪難波駅(近鉄難波線・阪神なんば線)より約5分
◎ なんば駅(大阪メトロ四つ橋線、千日前線)より約5分~8分