新百合ヶ丘総合病院 外傷再建センター センター長
松下 隆 先生に聞く 外傷再建センターの取り組み
重度外傷治療と機能再建
全身にわたる〝あらゆる外傷〟を対象として
南東北病院グループ 新百合ヶ丘総合病院 外傷再建センター センター長
松下 隆 先生
Takashi Matsushita M.D., D.M.Sc.
東京大学医学部卒業・東京大学大学院修了・医学博士
【 専門分野 】
外傷、骨折、四肢再建、イリザロフ法、肘関節外科
● 日本整形外科学会整形外科専門医
● ICD制度協議会インフェクションコントロールドクター
【 主な社会活動 】
•公益財団法人 運動器の健康・日本協会 専務理事
• NPO法人 日本脆弱性骨折ネットワーク 監事(前理事長)
1975年 東京大学医学部医学科卒業
1990年 帝京大学医学部整形外科 講師
1998年 帝京大学医学部整形外科 主任教授
2015年 福島県立医科大学外傷学講座 教授(寄附講座)
2015年 総合南東北病院 外傷センター センター長(〜2020年)
2020年 新百合ヶ丘総合病院 外傷再建センター センター長
2020年 南東北病院グループ外傷統括部長 兼任
【 所属学会 等 】
•国際骨折治療学会[I.S.F.R.] (理事長 2012年~2014年、学会長 2012年)
•国際イリザロフ法学会[A.S.A.M.I. Int’l.]
(理事長 2004年~2006年、学会長 2006年)
•日本骨折治療学会(理事長 2007年~2011年、学会長 2004年、名誉会員)
•日本創外固定・骨延長学会
(代表世話人 2005年~2014年、学会長 2005年、名誉会員)
•日本整形外科学会
(理事 2005年~2007年、代議員 2001年~2005年、2007年~2017年、
名誉会員)
高度な救急医療に力を入れる新百合ヶ丘総合病院では、2020年に外傷再建センターを新設し、重症外傷や治療が困難な骨折の再建治療に努めています。センター長は松下隆先生。骨を延長する「イリザロフ法」の第一人者であり、骨折した部分がつながらず関節のように動いてしまう偽関節を治療する独自の治療法「チッピング法」の開発者としても知られています。
骨折などの後遺障害に苦しむ患者さんも積極的に受け入れ、機能再建治療に取り組む外傷再建センターの現状と今後についてうかがいました。
新百合ヶ丘総合病院 外傷再建センター
— 外傷再建センターとは、どのような診療科なのでしょうか。
当院の外傷再建センターは、あらゆる外傷を対象として治療します。外傷とはケガのことであり、疾病(病気)は整形外科が担います。整形外科と外傷再建の医師が適切に分業することで、相互に効率的な治療が実現します。
外傷再建センターは、救急医療からリハビリテーション、後遺障害の機能再建までを含んで治療を行います。
治療の遅れが死に繋がる危険性の高い重傷外傷や腹部外傷、四肢や手指の切断から、四肢・脊椎・骨盤の骨折や高齢者の骨折など、すべての外傷患者さんを対象とし、外傷後の障害に対する再建治療も得意としています。
— 救急医療体制のなかで、外傷再建センターはどのように位置づけられるのでしょうか。
1次、2次、3次という救急医療体制のなかで、外傷、つまりケガや骨折の急患は、外傷の専門チームが治療にあたるというのが本来のポジションです。外傷部門を強化することは救急効率を高めることにも繋がります。
救急で患者さんが運ばれてくれば、まず第一に重視されるのは救命です。
しかし、骨の見えている骨折(開放骨折)があれば、感染を防ぎ、骨髄炎にならないよう、すみやかな処置も必要です。
急性期を脱して命が救われても、外傷の治療がおろそかにされれば、いろいろな障害が残ってしまいます。
骨折は適切な時期に適切に診断し、処置しなければなりません。そうしないと、骨が繋がらなくなったり、繋がらなくていい骨同士が繋がってしまうこともあるのです。変形して骨が繋がれば、歩けないなど、運動機能に障害が残り、仕事や日常生活に支障が出てしまいます。
命を助けることと、機能の回復を、できる限り最大限のバランスで行うのが外傷専門医の務めであり、手や脚の運動機能を元通りに回復させることは、とても大切な医療なのです。
海外、特にドイツの救急外傷センターは、そうした位置づけの独立した診療科として整備されてきました。重度外傷に対して常時緊急手術ができる体制です。ケガはすべて、外傷専門医が診療にあたり、時間が経ってしまった難治例の治療や再建も行います。
私たちはそのような外傷専門の救急センターを目指しており、どんな外傷にも対応できるよう、さまざまなスペシャリストが集結し治療にあたっています。
新百合ヶ丘総合病院—外傷機能再建治療
外傷のスペシャリストが集結する全国でも希有な治療拠点
外傷再建への取り組み
— 松下先生は帝京大学に、大学病院としてはじめて外傷センターを立ち上げられたそうですね。
私は東大医学部の学生の頃から骨折に興味を持ち、ロシアで開発されたイリザロフ法(左頁参照)が西側諸国に広まった80年代の早期から、その技術の習得と国内での普及に努めてきました。
1998年に帝京大学整形外科の主任教授に就任してからは、救急科と連携して外傷治療の向上に努め、2009年に全国で初めて大学病院に外傷センターを立ち上げました。
現在では東京都の開放骨折(骨が露出した骨折)の半分以上が帝京大学外傷センターで治療されています。
その後、南東北病院グループ総長で、メディコンパスクラブの理事長を務める渡邉一夫先生との出会いがあり、2015年からは福島県郡山市の総合南東北病院に福島県内初の外傷センターを開設しました。
— 新百合ヶ丘総合病院では、どのような外傷治療に取り組んでいるのでしょう。
新百合ヶ丘総合病院は救急医療に力を入れており、外傷治療の重要性も理解しています。外傷再建センターとしては、救急搬送される外傷患者さんはもちろんですが、首都圏全域から難しい新鮮骨折(受傷直後の骨折)の患者さんを受け入れ、全国からも難治化している骨折や骨折後遺障害の患者さんを広く受け入れて治療しています。
特に、手や脚などの機能回復や再建を重視する高度外傷センターが国内には十分整備されていない現状がありますから、最高の外傷再建治療を当院で集中的に行えるよう、外傷医療体制の充実に努めています。
— 救急以外でも外傷再建センターを受診できるのでしょうか。
外傷再建センターは、所属としては救急センターの一部です。大きなケガであれば救急から入るほうが多く、救急で受け入れて骨折があれば外傷にまわすのが通常の流れです。対象とするのは骨折だけではありませんし、難治性ということに限りません。全身のケガが対象です。
外来診療では主に術後のフォローアップを行いますが、他院から治療経過の思わしくない患者さんをご紹介いただき治療することも増えています。後遺障害が残ってしまった患者さんも、さまざまな治療法を駆使して機能再建を行い、元通りにします。
高度な技術を駆使した最新の外傷再建治療
— 外傷再建センターで行われている手術や治療法についてご紹介ください。
外傷(ケガ)の部位としては、手、脚、背骨、骨盤にかかわるものが多いのですが、頭部、胸部、腹部の外傷もあります。事故などで救急搬送される場合は、腸管、肝臓などの内臓が破裂していることもありますから、腹部外傷専門の外科医も当センターに所属しています。必要であれば脳外科、胸部外科の医師も手術を行います。
主な外傷治療としては、骨や関節の変形を矯正したり、短くなった骨を長くするイリザロフ法、繋がらない骨を繋ぐチッピング法、切断された指・腕・脚の再接着、なくなった骨や皮膚を補填するマイクロサージェリー(顕微鏡下手術)などの高度な技術を駆使して治療を行っています。
仕事中の事故などで手や脚、指を切断してしまった場合は、すみやかに当院へ搬送してください。緊急に再接合し、組織再建を行います。
手外科(てげか)という手の外傷の専門医も多数在籍しています。手外科専門医は、整形外科または形成外科の専門医であるだけでなく、さらに細分化された医学的スペシャリストです。
— 松下先生は、治りにくい骨折や変形した骨を元に戻す「イリザロフ法」、「チッピング法」がご専門とうかがいました。どのような治療法なのでしょうか。
イリザロフ法とは、骨を伸ばす治療法です。短くなった骨に創外固定器という器具を体の外からつけて、骨を切り、毎日1ミリくらいの速度で伸ばしていくと、間に骨ができてきます。筋肉も神経も骨も、自然に形成されて長くなります。
均等に延ばせば長くなり、不均一に伸ばせば曲げることができます。つまり、曲がった骨はまっすぐに戻せるし、ひねりながら伸ばせば、ねじれていた脚も元に戻るわけです。
チッピング法は、骨移植せずに偽関節(注)を治すために私が考案した治療法です。偽関節の周囲の骨をバラバラに砕いて偽関節部を癒合させるのです。
私はイリザロフ法とチッピング法を組み合わせて治療しています。偽関節になって脚を何度も手術している人は、たいがい脚が短くなっています。イリザリフ法とチッピング法を用いると、骨が繋がるだけでなく変形も治り、脚の長さも元通りになります。
骨折した骨が繋がらず、もう10回も手術を受けたという患者さんを、1回の手術で治すこともよくあります。
— 外傷再建治療は機能回復リハビリとの緊密な連携が必要とうかがいましたが。
外傷再建にとって、リハビリはとても重要です。時間が経って骨が繋がってみたら、手も脚も棒のようになってしまった。あるいは、関節が動かない。そんなことにならないように、早い段階からリハビリを積極的に進めていかなければなりません。
当院は優秀なリハビリスタッフが多数在籍しています。新棟も建設され、回復期リハビリテーション病棟の病床も確保されています。
高齢者の脆弱性骨折への対応と救急外傷体制の拡充
高齢者の骨折
— 高齢者の骨折が今後増えていくだろうと予測されているそうですが。
高齢者の骨折は増えています。高齢になると骨粗しょう症、つまり、骨の量が減って弱くなり、骨折しやすくなります。骨折はいろいろな部位に起きますが、特に大腿骨近位部骨折は厄介です。脚の付け根は折れやすく、適切に治療しなければ歩けなくなってしまうからです。
これからの高齢化社会では、こうした骨折治療への体系的なアプローチを考えていかなければなりません。
そのため、脆弱性骨折についての国際的な組織(略称FFN)がつくられており、私はその日本支部にあたる日本脆弱性骨折ネットワーク(注)の理事長を2012年の発足以来務めてきました。
現在の理事長は当院外傷再建センターの澤口 毅(さわぐち たけし)先生です。澤口先生は難しい骨盤、股関節治療で著名であり、日本有数の高度な技術を持っています。人工股関節の開発でも実績があり、たくさんの症例で良好な成績が得られています。
当院では、澤口先生をはじめ多くの診療科の医師や多職種の職員が同じ思いを持ち、高齢者の外傷機能再建治療を支えてくれているわけです。
ちなみに、日本骨折治療学会の理事長は、私が2代目で、澤口先生が3代目を務めました。
また、介護、行政などに対する啓発や協働、一般市民への啓発活動も行っています。
今後への抱負
— 新百合ヶ丘総合病院外傷再建センターの今後について、抱負や展望をお聞かせください。
新百合ヶ丘総合病院は、現在は2次救急を担っており、重症外傷は運ばれてきません。そのため、救命を担う他院の3次救急で命が救われた重度外傷患者さんを、なるべく早く当院の外傷再建センターに搬送し、機能再建に取り組むような連携、協力関係を広げていきたいと思っています。
当院ではヘリポートも稼働していますから、将来的にはヘリコプター搬送も利用した広域かつ24時間受け入れ可能な外傷治療体制を築いていきます。
また、南東北病院グループ以外の医師や医療機関とも連携し、外傷再建を担う医療ネットワークを組織することも考えています。
外傷再建センターとしては、より深く外傷に取り組みたいと考える若い整形外科医の教育やトレーニングにも力を入れていきます。救急対応する医師やスタッフの働き方改革も進め、志のある若い多職種のスタッフにとって働きがいのある充実した外傷再建センターに育てていきます。
外傷患者さんのより良い治療の実現を目指してまいりますので、皆さまのご理解とご協力をお願いします。
南東北病院グループ 医療法人社団 三成会 新百合ヶ丘総合病院
■ 〒215-0026 神奈川県川崎市麻生区古沢字都古255
【 診療科 】
■ 消化器内科
■ 内視鏡内科
■ 肝臓内科
■ 循環器内科
■ 呼吸器内科
■ 糖尿病・内分泌代謝内科
■ 腎臓内科・透析内科
■ 脳神経内科(脳卒中センター)
■ 血液内科
■ ペインクリニック内科
■ 精神科(心療内科)
■ 総合診療科
■ 緩和ケア内科
■ 消化器外科
■ 呼吸器外科
■ 血管外科
■ 乳腺・内分泌外科
■ 心臓血管外科
■ 整形外科
■ 脳神経外科
■ 脳血管内治療科
■ 脊椎脊髄末梢神経外科
■ 形成外科・美容外科
■ 産婦人科
■ 小児科
■ 泌尿器科
■ 皮膚科
■ 麻酔科
■ 眼科
■ 放射線診断科
■ 放射線治療科
■ 救急科
■ 歯科口腔外科
■ 病理診断科
■ リハビリテーション科
【 外傷再建センター 】
全国的にもめずらしく、ひとつの外傷再建チームで一貫して皮膚から骨までの幅広い外傷治療が行えます。「他院で感染した」「骨折が治らない」など、外傷後の後遺症・難治性骨軟部感染症の治療も行っています。
[ 主な対象疾患 ]
● 手外科
● 切断四肢の再接着・再建治療
● 関節内骨折
● 難治性骨折・感染性偽関節
● 重度四肢開放骨折・組織損傷
● 多発外傷・骨盤外傷
● 小田急線 新百合ヶ丘駅より病院坂下まで徒歩 約13分
● 病院坂下から病院送迎無料ワゴン車運行
● 新百合ヶ丘駅南口 小田急バス3番乗り場から直通バス 約5分