メディコンパス/2017年7月取材:
Support for concerns about urinationand sexuality, kidney function and urological cancer

南東北医療クリニック 院長/総合南東北病院 院長代行/国際医療本部長 深谷保男先生に聞く
泌尿器科疾患の症状と治療法

排尿の悩み、腎機能と泌尿器がんについて


南東北医療クリニック 院長・総合南東北病院 院長代行・国際医療本部長
深谷 保男 先生
Dr. Yasuo Fukaya
 

福島県立医科大学 臨床教授
医学博士
【 専門科目/分野 】
泌尿器科/泌尿器科学一般、尿路機能障害、性機能障害、前立腺肥大症、
前立腺がん、尿路がん、透析療法
●日本泌尿器科学会 専門医・指導医
●日本老年泌尿器科学会 評議員
●(財)福島県臓器移植推進財団 理事
【 Profileプロフィール 】
福島県郡山市出身
1980年 岩手医科大学医学部卒業
1981年 福島県立医科大学 副手
1987年 福島県立医科大学 助手
1992年 福島県立医科大学 講師
1994年 総合南東北病院 副院長/泌尿器科科長
2006年 総合南東北病院 院長代行
2014年 南東北医療クリニック院長 兼務
2012年 新百合ヶ丘総合病院院長就任
【 主な学会活動 】
1989年 日本泌尿器科学会 坂口賞受賞

南東北医療クリニック院長、深谷保男先生の専門は泌尿器科。長年にわたって排尿機能障害についての研究と臨床に取り組み、治療薬の開発にも携わってきました。
特に高齢者の前立腺肥大症、過活動膀胱の治療に力を注ぎ、尿失禁に対するコンチネンスケア外来を保健師(梶原敦子さん)とともにいち早く開設、排尿ケアの指導にも取り組んできました。
また、総合南東北病院院長代行として医療から福祉にわたる南東北グループの運営を支えるとともに、国際医療本部長として、海外から渡航受診する外国人の受け入れや海外への情報発信にも力をつくしています。
深谷先生の幅広い活動の中から、特にメディコンパスクラブ会員の皆様に関連の深い領域について、分かりやすくお話し頂きました。

泌尿器科の診療について

泌尿器科は手術療法を中心とした外科の一つであり、専門的な診療や内科的治療も行う非常に幅広い診療科です。副腎、腎臓、尿管、膀胱、前立腺、尿道、男性生殖器と、内科と外科をまたいで、診療の全過程を担います。
総合南東北病院の泌尿器科は、患者さん第一をモットーに、外来、入院など5名の医師で幅広く診療を行ってきました。
診療内容は、泌尿器がん、尿路結石、尿路感染症、排尿障害、女性尿失禁、小児泌尿器科、男性性機能、副腎疾患、腎不全、透析医療等多岐にわたり、性機能についての悩みにも対応しています。

排尿異常と男性の前立腺肥大症

中年以上の男性の排尿異常の多くが前立腺肥大症由来です(図1)。
前立腺は年齢とともに大きくなり、60歳以上では60~70%に肥大が見られます。ただし、すべての前立腺肥大の方に症状があるわけではありません。

症状は、尿が出にくい、時間がかかる、切れが悪い、尿が近いなどです。残尿感だけという方もいます。これらに関しては、交感神経をブロックするα遮断薬が非常に有効で、ユリーフ、フリバス、ハルナールといった薬があります。
現在では、前立腺や膀胱の血液の流れを良くするPDE5阻害薬のザルティアという薬剤が開発されています。欧米で評価が高く、日本でも発売されました。
また、前立腺を小さくする5–α還元酵素阻害薬のアボルブも有効です。しかし、薬物療法でもあまり症状が良くならない場合や、尿が出なくなる尿閉の方には手術が必要になります。
従来から行われている標準的な手術は、TUR–P(経尿道的前立腺切除術)と呼ばれるもので、現在でも行われています。

当院ではHoLEPという新しい手術を行っています(図2)。この手術は、内視鏡の先についたレーザーメスで肥大した前立腺を切除します。出血量が非常に少なく、大きな肥大症でも有用であり、当院ではHoLEPの導入によって、開腹手術はまったく行われなくなりました。
前立腺肥大症の手術をされた方からは、「非常に排尿が良くなり、こういう手術があるなら、もっと早くやれば良かった」という感想を多く頂きます。

図1:前立腺肥大 前立腺肥大によって、前立腺が尿道を狭くし、排尿障害を引き起こします。
図2:HoLEP前立腺肥大症に対するHoLEP。内視鏡の先端についたレーザーメスを用いて前立腺の治療を行います。出血も少ない体に優しい治療法です。

過活動膀胱(OAB)と治療

過活動膀胱は、急に尿意を催したり、トイレが間に合わず尿が漏れてしまう、尿の間隔が日中1時間以内であったり、夜間も2回以上の頻尿で苦になる、そうした症状を示します。
そのため、長時間の会議や車の移動、ゴルフの最中にトイレに行くなど、日常に支障をきたすことがあります。OABと呼ばれるこの過活動膀胱は年齢が高いと多くなり、60歳代の男性では人口の15%、70歳代では27%と、非常に高い有病率を示しています(図3)。この原因の一つには、前立腺肥大症が考えられます。

一方で、女性でもOABの有病率は年齢とともに高くなります。これは昔から見られていた現象です。
薬剤は、副交感神経を遮断する薬が中心です。日本ではベシケア、ステーブラ、ウリトス、バップフォーなどが中心に使われており、最近出た交感神経作動薬のベタニスも極めて有効です。
「薬を飲んで数日後から頻尿が改善した」という患者さんが多数います。

糖尿病などによる尿閉について

前立腺肥大症ではないのに、尿がとても出にくくなる方もいます。いわゆる尿閉です。代表的なものは糖尿病や脳卒中などによる神経障害ですが、これらを含めて神経因性膀胱と呼びます。
こうした場合の治療は、まず薬剤を用いるのですが、どうしても改善しない場合には自己導尿を行うことになります。
従来は尿道にカテーテルを留置する方法が用いられていました。今は自分か家族で尿道に細いカテーテルを1日数回挿入する間欠自己導尿(CIC)という方法が一般的です。

腎機能障害と透析

中高年の方では、腎硬化症による腎機能障害も多くなっています。
これは全身の動脈が硬くなることによって、腎臓を構成している動脈も硬くなり、結果的に腎臓の働きが落ちてくることで生じます。これによって透析に入る方も増えています。
兆候としてはタンパク尿があります。専門診療科は腎臓内科が一般的ですが、腎臓の専門医は少ないため、まず、近くの泌尿器科を受診して下さい。
特にクレアチニン(cr)1・5㎎/㎗以上は要注意です。
2・0以上になると、いずれ透析の可能性が出てきますから、きちんとした塩分制限、食事管理、血圧管理が求められます。
クレアチニンの値が4・0以上の方は、透析を覚悟してドクターの指示に従ってほしいと思います。無意味に拒否してしまうと、いざ透析をしてもなかなか体調が戻らないケースもあります。

泌尿器科のがん—尿路上皮がん、腎細胞がん

泌尿器科のがんの自覚症状として、一番多いのが血尿です。この場合は尿路上皮がん、つまり、膀胱がん、尿管がん、腎盂がんといった尿路のがんを真っ先に疑います(図4)。
CTやPETで検査をしますが、そこで異常がなくても、膀胱がんは微少で存在するため、膀胱鏡検査を行います。小さいうちに発見できれば内視鏡手術も可能ですが、大きくなると膀胱を全摘することになります。手術では腹腔鏡を用いることもありますが、尿路変更のための回腸導管造設術、尿管皮膚瘻(ひふろう)など、大がかりな手術が必要になります。
次に、腎細胞がんですが、これは自覚症状が出にくいのが特徴です。ただし、早期のものは検診のCTやエコーで見つかることが多いので、定期的なドックや検診が有効です(図5)。

写真左(図4):尿路上皮がん 
写真右(図5):腎細胞がんのCT画像
腎細胞がん死亡は腎臓がん全体(腎細胞がんと腎盂・尿管がん)のがん死亡の約7割を占めます。
腎細胞がんは早期であれば根治が期待できるがんであり、検診によって見つかりやすいがんです。
転移を起こすと治療が困難です

前立腺がんと陽子線治療

日本人の男性の前立腺がんは増えています。将来、肺がんに次いで第2位の罹患率になるだろうと言われています。PSAという前立腺特異抗原の値が4・0以上だと、前立腺がんを疑います。当院では、PSAの値が高いと、まずMRIの検査をし、疑いがあれば前立腺生検で実際に組織を調べます。
前立腺がんと診断されれば、開腹手術やダヴィンチによる手術も有用ですが、当院では〝体に優しい放射線治療〟として、陽子線、IMRT(強度変調放射線治療)による先進的な治療が可能です。この二つが稼働しているのは、日本でも当院だけです。
両者ともに同じくらいの治療成績ですが、特に陽子線治療は副作用も少なく、より体に優しいと言えます。
陽子線治療は導入から9年が経ち、現時点での治療実績は534例です。その間、適応と判断し照射をした後に、前立腺がんで死亡した方はおりません。非常に陽子線の治療成績は良いですね。

性機能障害についても、気軽に相談に応じています

高齢者にとっても、性機能は生活の質において重要な要素です。
日本では羞恥心の関係で性の問題はタブー視され、データは不充分ですが、欧米に比して夫婦間の性交渉頻度は極端に低いと言われています。今年学会で発表されたアンケート調査でも、日本人で70歳以降でも性行為ありと答えた人は10~30%と多くはありません。
欧米の調査では、豊かな性生活で寿命も長くなることが指摘されています。精神的な要因も強く、ケースバイケースですが、性機能についてお悩みの方はご相談ください。
現在日本で使える薬としては、バイアグラ、レビトラ、シアリスの3種類があり、いずれも自費になります。本当に使うかどうかは医師と十分に相談してからが良いかと思います。こうした性の問題についても雑談を交えながら積極的に相談に応じています。
最近、梅毒を中心とした性行為感染症がかなり増えておりますので、そちらの検査でも気軽に当科を受診して頂ければと思います。

当院は「ジャパン インターナショナル ホスピタルズ」の一つとして、
国際的に推奨されています

私は現在、当院の国際医療本部長を務めています。昨年1年間の成績を見ると、延べ人数で40名ほどの外国人の患者さんが当院を受診されました。うち中国人が32名です。
受診の中身は、陽子線を使ったがん治療が多いのですが、帰国された患者さんは大変満足をされていて、その結果、口コミでほかの患者さんが来院される傾向が続いています。
当院は日本政府と協調して、海外からの渡航受診を受け入れる「MEJ」(Medical Excellence JAPAN)の推奨病院となり、全国で35病院の「ジャパン インターナショナル ホスピタルズ」に参加しています。
診療目的で当院に来られる患者さんの数は、日本でもトップクラスだと考えています。当院では、半田祐二朗医師を部長に、英語が堪能な日本人職員が1名、中国人の女性職員が2名、事務官1名の計6名で国際医療部を組織し、海外からの患者さんをサポートしています。言葉や文化、習慣の違い、お金のやり取りの問題など、大分経験を積んできました。
これからも、南東北病院グループの陽子線治療や手術などの高度な医療をアピールし、海外の患者さんに治療に来て頂けるよう努めていきたいと考えています。
国は、陽子線治療、あるいはBNCT(ホウ素中性子捕捉療法・南東北病院グループが世界で初めて導入)など、日本の医療機械輸出にも力を入れていますが、私たちはそれとともに、医師、看護師、技術者も海外に行って、日本の優れた医療を世界に向けて発信し貢献することが大事だと思っています。

写真左:南東北がん陽子線治療センター回転ガントリー室 
回転ガントリー室が2室、水平照射室が1室、計3室の治療室があり、体に優しいがん治療を実践しています。
写真中:IMRT
強度変調放射線治療。
腫瘍部分のみに放射線を集中照射して治療します。腫瘍制御率の向上や合併症の軽減が期待できます。
写真右:総合南東北病院 透析センター
患者さん個別のオーダーメイド透析を実践すべく、患者さんごとに重点管理目標を設定した管理を行っています。
ベッド数82床、維持透析患者数約160名。