メディコンパス/2011年1月取材:Southern TOHOKU General Hospital

総合南東北病院 院長 寺西 寧先生に聞く
急性期医療からがん治療まで、南東北病院グループの中枢を担う

総合南東北病院の医療


一般財団法人 脳神経疾患研究所 附属 総合南東北病院 院長
寺西 寧 先生
Dr. Yasushi Teranishi
 

福島県立医科大学 外科学臨床教授(医学博士)
社団法人 福島県医師会 代議員
社団法人 郡山医師会 副会長 ほか
 
【 専門科目 】
外科/消化器外科一般、特に膵がんの手術
●日本外科学会指導医
●日本消化器外科学会指導医
●日本外科学会認定医
 
【 Profileプロフィール 】
1978年 福島県立医科大学卒業
1982年 福島県立医科大学附属病院第1外科
1988年 奥羽大学外科学講座教授
1989年 福島県立医科大学附属病院第1外科講師
1994年 南東北病院(現・総合南東北病院)
2005年 総合南東北病院 院長
現在に至る

メディコンパスクラブが提携する南東北病院グループの中核をなすのが福島県郡山市にある総合南東北病院です。
同病院は地域の中核病院として脳卒中、心筋梗塞をはじめとする急性期および慢性疾患に対する幅広い医療を提供するとともに、陽子線治療などの先進的ながん医療を担い、〝民間初のがんセンター〟としての役割を果たしています。
がん、心疾患、脳神経疾患の撲滅は同病院が掲げる理念。患者さんが苦しむどんな病気も治すことを使命として30年の歴史を歩んできました。
そのため、最新医療の導入とともに、PETがんドック、脳ドックや人間ドックなど、質の高い健診サービスをいち早く導入し、疾病の予防と早期発見、早期治療が可能な診療体制の充実にも力を注いできました。
総合南東北病院を率いるのは、寺西寧院長。消化器がんの治療を専門とする消化器外科のスペシャリストであり、関係する各診療科や陽子線治療とも相互に連携し、体にやさしく、より適切で有効ながん治療の実現と治療率の向上に力をつくしています。
寺西寧先生に、同病院の特色とともに、PETがんドックや陽子線治療を総合病院として持つことの意義などについてうかがいました。

総合南東北病院とは

—総合南東北病院とは、どのような病院なのでしょうか。

総合南東北病院は今年12月、創立30周年を迎えます。開設当初は「南東北脳神経外科病院」という渡邉一夫理事長の個人病院でした。私が着任した1994年当時も、まだ脳神経外科の専門病院としての性格が強く、救急病院や外傷、脳外科障害、くも膜下出血、脳卒中などでは知られていましたが、がんを扱うような外科はありませんでした。

私は消化器外科の医者で、専門は消化器系のがんです。それまでは福島県立医科大学の第一外科にいたのですが、渡邉一夫理事長から声をかけられました。
日本人の死亡原因の第一位が脳卒中からがんに変わり、がん、心臓血管疾患、脳卒中が三大疾患と呼ばれ始めた時代でした。「どんな疾患でも治す」という渡邉理事長の医療人としての使命感をまっとうするためにも、いろいろな診療科を増設する必要があったのです。
外科、泌尿器科、消化器内科が一度に増え、医者の数も増えました。病院は患者さんの全身にわたる疾患にも対処できる総合病院となっていきましたが、そのなかでとてもいい文化が生まれてきたと思います。
各科の横のつながりが柔軟で、いわゆる「縦割り」「専門分化」という弊害がありません。「すべては患者さんのために」という渡邉理事長の院是が徹底していたということもありますが、比較的新しい病院であることも幸いしました。今では県内でもトップクラスの診療科数を誇り、外科の手術件数も病気や部位別に多少の差はありますが、県内でも1、2を争うようになっています。

低侵襲で体への負担が軽い医療技術も積極的に導入し、脳腫瘍などではサイバーナイフ、がん治療では陽子線治療も導入しています。
放射線では血管内治療も行いますし、読影(画像診断)の専門医、放射線腫瘍医も含めて17人の放射線専門医が在籍するのは大きな特色です。

がん医療のなかにしっかりと位置づけられたPETがんドック

—総合南東北病院は、健診、ドックなどの予防医学についても力を入れてこられましたが、特にがんの早期発見でのPET検査の意義についてうかがえますか。

予防医学への取り組みでは、脳ドックやPET(ペット)がんドックなど、先進的で精度の高い検診を提供できていると自負しています。
だいたい1センチに満たない早期の小さながんを見つけられれば、転移もなく早期治療で治すことができますし、治療の選択肢も広くなります。

PET検査は無症状の早期の食道がんにも有効です。食道がんは進行すると転移しやすく死亡率も高まりますが、早期なら内視鏡治療が可能になります。
消化器系のがんの場合、胃や大腸はまめに検査していればほぼ見つけることができます。子宮もそうです。
しかし、肺、膵臓、胆嚢や肝臓になると少し事情が変わります。
肺がんならCTで画像診断するのがいいのは分かっているのですが、これを国民全員にやると医療費が底をつきます。どうしても、自主的にドックのようなものを別に用意するしかありません。
ですから、お金にある程度余裕があるなら、自分の健康のために使ってほしいと思います。

自分で予防するという意識で定期的にPETがんドックを受け、がん死予防に繋げてください。
PETに関しては民間の企業が健診だけに特化している事例もありますが、単に利潤追求のための健診ではなく、がん医療のなかにしっかりと位置づけて進めていくことが求められると思います。

早期食道がんのPET検査画像例:PET-CTで下部食道に一致して集積が見られる

発見が難しい膵臓がん

—膵臓のがんは発見や治療が難しいと聞きますが、いかがでしょうか。

膵臓のがんは、見つけにくく治しにくいがんです。発見されても手術不能と判断されることも多くありました。一般的な健診のなかで見つかることはほとんどなく、エコーやPET—CTを用いて、きちんと詳細に検査しないとなかなか見つかりません。
超音波検査で疑わしいということで調べてみても、膵がんであるケースは案外少ないのです。ところがPET検査では、おかしいということで検査をすると50%以上に膵がんが見つかります。すべての微少な膵がんがPETで見つかるかと言えばまだ難しい部分もありますが、PETを用いずにCTだけで検査すると診断が不可能という膵がんもあり、それだけ膵がんは発見も難しいのです。
これなら絶対治るという段階で見つけられるようにしたいのですが、そこはまだ少し課題を残しています。

膵がん症例①:CTでは膵がんの診断は不可能
膵がん症例②:PET画像/右上腹部に集積がみられ同部位に悪性腫瘍の疑い
膵がん症例③:PET-CTにて膵頭部に一致して集積があり膵がんの診断がついた
膵がん症例④:術前CTによる血管造影 すでに腹部血管に浸潤が見られた

最適な治療法を検討するキャンサーボード

—外科は日本のがん治療では本流であり、エビデンスも確立されていますが、治療法を選択する上で他科とどのような連携を進めているのでしょうか。

病気の種類にもよりますが、消化器のがんなら、第一にがんを見つけて診断するのは消化器内科です。そこからがんの病態や、ステージによって、治療方針を決めていきます。
当院の内視鏡センターは充実していて、食道がんや胃がんの場合、粘膜内の早期がんなら内視鏡手術で治ってしまいます。この場合、放射線治療は必要ありません。
術後の回復が早い低侵襲治療には病院として力を入れており、開腹せずに治療する腹腔鏡手術も行っています。

肺がんは3分の1ほどは胸腔鏡手術です。それでも対処しきれない場合に開腹あるいは開胸で外科手術をします。さらにそこに放射線治療がどこまで関与できるか、ということです。
がんが進行してくると、外科で手術をする割合が増えてきます。内科と外科のコラボレーションが大切です。そういう連携が病院内ではできあがっています。
さらに治療の難しい症例になると、合同カンファランスで検討します。
診断に迷うものや、転移、進行している場合には、キャンサーボードという検討会が召集され、総勢20人くらいの医師が集まって、一つの症例について最適な治療法を検討します。外科、放射線、化学療法など、診療科の垣根をとりはらい、治療方針を総合的に話し合います。

食道がんなどの大きな手術になると外観に影響したり、声を失いかねない場合もあります。そこで現在、積極的に陽子線治療を進めているのですが、成績も良好です。しかし、そうした治療もやはり外科の存在が支えになります。いざというときに対応できるからです。陽子線治療の単独施設ではできない、総合病院としてのメリットだと思います。ですから、外科にとっても放射線や化学療法が必要だし、放射線科にとっても外科は必要なのです。

写真左:早期食道がん内視鏡所見隆起型の粘膜内がん(無症状・PETで発見)
写真中:食道透視食道粘膜に小さな隆起が見られる
写真右:食道がんの摘出標本早期食道癌で治癒切除され、再発なく5年生存中

民間初のがんセンター 総合南東北病院が持つ総合病院としてのポテンシャル

—総合南東北病院は〝民間初のがんセンター〟としても期待されています。今後は陽子線と外科がコラボして治療することもお考えだそうですが。

抗がん剤と放射線治療を合わせてがんを小さくしてから手術をする、というのがひとつの標準治療です。しかしその際、通常の放射線ではなく陽子線と組み合わせることでさらに良好な結果が出てくる可能性があります。

食道がんの場合、最初に放射線と化学療法をしてから手術をするケースがよくあるのですが、術後合併症が問題でした。
がんは治っても、放射線と化学療法のため体にダメージが大きく、致死率も高くならざるを得ないのです。
陽子線ならピンポイントで照射できるので大事な臓器が温存できます。手術しても通常の放射線よりも良い結果になるのではないか、と考えられます。
陽子線治療には難しい症例が全国から集まるので治療も大変ですが、患者さんにとって大きな福音となる可能性は出てきたと言えるでしょう。

私たちは、外科としても視野を広げた見方をすべきだと考えています。
これからのがん治療は一律ではなく、患者さんにとって一番いい方法を探り、総合力で治すのがこの病院のスタンスです。
私たちが民間のがんセンターとして期待されているとすれば、その中身は陽子線治療や精度の高い検診とともに、いろいろなことに柔軟に対応できる総合病院としてのポテンシャルへの期待があると思います。
専門の医師が専門分野の垣根を越えて総合的ながん治療に取り組むのはもちろんですが、病気はがんだけ、という患者さんは実は少ないのです。心臓が悪かったり、高齢だったり、歯が悪かったりするのが普通です。
そういう方にオールオーバーでケアをするという文化を私たちは培ってきました。

水準の高い医療を世界に提供する

—今後は、海外も視野に入れた医療サービスを考えているそうですが。

ロシア、サウジアラビア、中国、アセアン諸国などから健診や治療に来たいという要望は多く寄せられており、医療のグローバル化は不可避だと考えています。
規制緩和で医療の質を落としたり、日本の医療制度を駄目にするような意味ではなく、私たちのミッションは〝世界水準のレベルの高い病院にしていく〟ということです。
もともと、日本の医療レベルは高いのです。消化器系のがんなら日本が世界一の水準ではないでしょうか。
南東北グループとしては医療サービスをグローバルな水準へと高めていきます。国内の病院機能評価は1999年から、ISOも2001年から取得しています。
日本の医療界は歴史的に見ると閉鎖的で、今までは海外に目が向いていませんでした。私たちは医療の将来を見据えながら、予防医学や先進的な高度医療など、南東北病院グループが得意とする医療サービスを海外にも自信を持って提供していきたいと考えています。