新百合ヶ丘総合病院 がんセンター センター長 鈴木光明先生に聞く
新百合ヶ丘総合病院が提供するがんのトータルサポート
がんは予防する時代
医療法人社団 三成会
新百合ヶ丘総合病院 がんセンター センター長
鈴木 光明 先生
Dr. Mitsuaki Suzuki
日本産婦人科医会常務理事 |
新百合ヶ丘総合病院は、産婦人科医療に対する地域のニーズに応え、高度な不妊治療、妊娠分娩の管理から婦人科疾患に至るまで、総合的に対応できる診療体制を整えてきました。特に、体への負担が少ない腹腔鏡下手術では、すでに東日本でもトップレベルと言われています。
しかし、理想的な〝女性の生涯にわたる悩みに応え得る診療〟を実現するためには、女性の悪性腫瘍、つまりがん治療の充実は避けて通れない課題です。
今年(2015年)着任された鈴木光明先生は婦人科腫瘍の権威。自治医科大学産科婦人科学の教授として、卵巣・子宮がんの手術や、抗がん剤を用いた化学療法の研究と治療に取り組んできました。
近年は学会等の活動を通して、「子宮頸がん」予防の必要性を国や行政に働きかけ、早期発見に寄与する検診システムや、信頼できるワクチン接種の制度設計にも力をつくしてきました。
「子宮頸がん」は若い女性のがん。罹患率も増加が見られますが、唯一原因の分かっているがんであり、「予防するがん」と言われています。
新百合ヶ丘総合病院がんセンターセンター長として、質の高い検診から診断、治療、リハビリ、緩和医療という一連のがん医療全体を担う鈴木光明先生にお話をうかがいました。
女性の一生の健康に向き合う
産婦人科は女性の一生の健康をサポートする幅広い診療科です。妊娠分娩や不妊症治療、子宮筋腫、がん、さらに、更年期障害や骨粗しょう症と、女性のライフサイクルのすべてにわたっています。しかも、帝王切開やがんの手術などの外科的な面と、化学・放射線治療、さらに診断に関わる内科的要素という多様な側面を持っています。
そのなかで、私の専門は婦人科のがんが中心です。最初に取り組んだのは卵巣がんです。卵巣がんの手術では、転移巣や周辺のリンパ節を完全に取り除くことが必要になりますが、そうした徹底した治療も行い、患者さんと向き合ってきました。その後、婦人科がん治療のもうひとつの柱である化学療法の研究や臨床に携わり、さらに子宮頸がんの予防にも力を入れてきました。
がんは高齢の方の病気だと思われがちですが、子宮頸がんは30代がピークです。婦人科のがんは妊娠出産にも影響しますから、患者さんにとっては深刻です。
ところが、この子宮頸がんは、ほかのがんと違って原因が分かっています。ですから、日本産婦人科医会として、予防啓発や検診、ワクチン接種の体制づくりにも取り組んできました。
子宮頸がんの征圧に向けて
子宮頸がんは、子宮頸部にできるがんです。1983年に、HPV(ヒトパピローマウィルス)が原因であることが解明されました。原因が分かったことで、予防するワクチンが開発され、HPVのDNAを検出する検査法も確立されました。
子宮頸がんは、20代から30代の女性に急増しています。この年代では乳がんよりも多いのです。日本では毎年1万人以上が発症し、3000人以上が亡くなっています。日本で死亡率の増加の加速が見られるのは子宮頸がんだけです。
初期の段階では半数以上が無症状ですが、進行すると命にも関わりますし、出産の機会も奪いかねません。しかし、子宮頸がんは原因が解明されています。定期的に検診を受ければ防ぐことができますから、対策に力を入れることは社会的な要請なのです。
そこで、2013年4月から厚生労働省による予防ワクチンの定期接種が始まったのですが、一部にワクチンをめぐる副反応問題が報道されました。健康な若い女性が接種するワクチンですから、原因の解明も含めて、慎重な対応が求められ、厚労省は同年6月に積極勧奨を一時中止しました。
現在は、ワクチンの有効性とリスクを理解した上で接種を受けるようアナウンスしています。
先頃、「HPVワクチン接種後に生じた症状に対する診療の手引き」という小冊子をまとめましたが、これは、日本医師会、日本医学会とともに、ワクチン接種に反対の先生とも一緒に意見を集約しました。
WHO(世界保健機関)、FIGO(国際産婦人科連合)など、国際的な組織でもいろいろな調査を行ってきましたが、ワクチンと副反応に因果関係の証拠はないという見解が示されています。
先進国のなかで接種を中止した国は日本だけです。ですから、今後、日本人の子宮頸がんの発症がほかの国に比べて高まる可能性も否定できません。厚労省では副反応検討部会を招集して調査を行い、検討を重ねています。
ただし、ワクチン接種後、痛みなどの症状で悩む方がおられることも事実であり、そうした方への支援体制も整えなければなりません。現在に至るまで、国と一緒になって、各県に医療支援体制を整える取り組みを進めてきました。
グラフ左:日本における子宮頸がんの罹患率 年次推移 近年、20〜30歳代の若い世代で子宮頸がんの罹患率が増加
グラフ右:子宮頸がんの罹患年齢と出産年齢(日本) 出産年齢のピークは子宮頸がん(上皮内がん含む)罹患のピークでもある
HPV検査と細胞診の併用による子宮頸がん検診と予防
これまでの子宮頸がん検診は、細胞診による形態診断でした。
新しい検査法であるHPV検査を細胞診に併用すると、より精度の高い、見落としのない検査が可能になります。
HPV検査は、子宮頸がんの原因であるHPVウィルスがいるかいないかを検査します。人に危害はありません。
この検査法の対象年齢としては、世界的に30歳以上が望ましいとされています。何故かと言うと、それより若い方にはHPVの一時的な感染が多いからです。陽性であっても、免疫の作用で陰性に変わることが多いのです。
二つの検査を行った場合、何通りかのパターンが出てきますが、両方陰性なら一番安心できます。どちらか一方が陽性の場合には、精密検査や、1年後の再検査を行います。
細胞診だけの検査だと、2年、3年後には病変が出てくるケースが少なからずあるのですが、二つの検査とも陰性なら、3年から5年は安心できます。
子宮頸がんは「予防するがん」です。検診による前がん病変の発見、ワクチン接種による前がん病変発生の予防によって手術を回避し、子宮を温存することが望まれます。
婦人科のがんの治療について
がんの治療方針を決定するには、専門医による正確な診断が前提です。子宮全摘の必要があるのか。子宮頸部を切除するとしたらどの程度にすべきか。
少しだけ削るだけでも、流産や早産が多くなるというデータがありますから、これからお子さんを望むなら、子宮頸部はできるだけ残しておきたい。
そういうことも加味して治療方針を決めなければなりません。
新百合ヶ丘総合病院の産婦人科は、病院開設以来、主に腹腔鏡下手術と、産科、不妊治療で高い評価を得てきました。これからは、さらに婦人科のがんにも力を入れていきます。がんの診断に欠かせない病理の面も強化されてきましたし、診断から治療まで体制は充実しています。
ところで、がんがある程度まで進行してしまうと、卵巣、子宮、リンパ節などの摘出手術が必要になります。手術後に放射線治療や、抗がん剤治療、あるいはその両方を併用する治療を追加する場合もあります。放射線治療では、新百合ケ丘総合病院には最先端のサイバーナイフがあり、再発したがんなどの難しい症例にも臨床応用し、結果を出してきました。しかし、婦人科のがんの場合、より広範な治療にも対応できるリニアックのような標準的な放射線治療も必要とされます。
子宮頸がんは放射線治療が効果的ながんとして知られており、範囲を決めて放射線を照射するのが標準的な治療です。同時化学放射線療法でも、リニアックで放射線をかけながら、同時に抗がん剤治療をします。
また、広汎子宮全摘出術、さらに周辺のリンパ節を切除するリンパ節郭清という手術をしたとき、ごく小さながんが残存している可能性もあるため、手術後に放射線を使います。
質の高いPET—CTがんドック
2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで命を落とす時代です。新百合ケ丘総合病院としても、地域の中核病院の役割を担う上で、がんの診療は避けて通れません。まずは早期発見のために質の高い検診やドックを提供していきたいと考えています。
南東北病院グループの渡邉一夫総長には、がんに立ち向かう熱い思いがあります。PET—CTはグループ病院全体で10台以上が稼働し、また、どこの病院も手に負えないような難しいがんの治療にも力を注いでいます。
陽子線治療を開始し、今度はBNCT(ホウ素中性子捕捉療法)を導入しました。新百合ヶ丘総合病院には最新のサイバーナイフと、手術支援ロボット「ダヴィンチ」も稼働しています。
PETを利用したがんドックはとても良いと思います。実は私も、郡山市の総合南東北病院で毎年受けていました。一番ありがたいのは、検査を受けるのが楽なことです。検査中は眠くなるほどで、30分じっとしていると、命の洗濯みたいです。それで全身をチェックできるのは素晴らしい。
もちろん、PETでは苦手ながんもありますから、ほかの検査も組み合わせたメニューが望まれます。メディコンパスクラブのドックには、子宮頸がんの検査も含まれています。女性の方はぜひ受けるようにしてください。
「新百合ヶ丘総合病院がんセンター」が担うもの
新百合ケ丘総合病院の腹腔鏡下手術は、東日本を代表するレベルだと思います。とても価値のある医療を行っていますから、そうした優れた点を伸ばし、これからはさらに婦人科全般のがん治療にも積極的に取り組んでいきます。
患者さんの体への負担が少ない低侵襲治療を第一に心がけながら、腹腔鏡下手術で間に合わない場合には、それに代わる選択肢も提示できるようにしていきます。もし必要があれば、リンパ節などを徹底して切除するような手術も可能です。
婦人科のがんでも、腸に転移していれば外科手術が必要になります。膀胱や尿管がそばにありますから、泌尿器科のドクターの協力も必要です。
逆の場合もあります。大腸や胃がんの手術で卵巣や子宮に転移があれば、婦人科も協力します。ですから、がん医療のクオリティを高めていくためには、他科と連携して治療できる環境を整えることが大切なのです。
がん診療連携拠点病院として
新百合ヶ丘総合病院がんセンターでは、今年の8月からキャンサーボードをスタートさせました。
診療科の垣根を越えて、病理、放射線、医師、技師、看護師などの医療スタッフが一堂に会して、症例について治療法を検討します。診断や手術が適切であったか、病理のドクターを交えて検証することも必要です。人材の育成と確保、手術室や機器の拡充整備も進めていきます。
このように、治療のプランから、その後の反省、地域との連携、そして再発して苦しんでいる患者さんを支える緩和医療、リハビリや介護も含めたトータルな体制をつくり、「がん診療連携拠点病院」として患者さんや地域に貢献していきたいと考えています。
医療連携についても、川崎市の北部医療圏から、町田市や相模原市など周辺の地域にも拡大し、ドクターとの交流を進めていきます。
胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がんは「5大がん」と言われています。こうしたがんは検診で早期に発見することが大事です。イギリスなどの統計でも、検診受診率が上がるとがん死亡率が減少することが示されています。
これまで私は婦人科の立場からがん検診の制度設計、普及に携わってきました。これからは新百合ヶ丘総合病院のがんセンター長として、検診やドックの重要性とがん医療全般について、地域の皆さんにも理解して頂けるよう努力していきます。