メディコンパス/2023年12月取材:Southern TOHOKU Healthcare Group.

南東北病院グループ / 認知症への取り組み(2)

認知症の早期診断と最新治療
軽度認知障害(MCI)の段階で早期発見し早めに治療や対処を

総合東京病院 認知症疾患研究センター センター長
(もの忘れ外来)
羽生 春夫 先生
Haruo Hanyu M.D., Ph.D.
東京医科大学 名誉教授
前 東京医科大学 高齢診療科 主任教授
 
専門分野
老年病学、神経病学(特に認知症、脳血管障害)

専門医 等
日本老年医学会専門医・指導医 / 日本認知症学会専門医・指導医 /
日本神経学会専門医・指導医 / 日本内科学会認定医

Profileプロフィール
1981年 東京医科大学卒業
2009年 東京医科大学老年病科教授
2013年 東京医科大学高齢診療科主任教授
2015年 東京医科大学病院副院長
     同地域連携型認知症疾患医療センター長
2020年 総合東京病院認知症疾患研究センター長
2020年 総合南東北病院「もの忘れ外来」担当

「もの忘れ外来」で行う総合的診断

 認知症とは〝症状〟を指す言葉で、原因となる病気にはさまざまなものがあります。一番多いのがアルツハイマー型認知症で、認知症全体の50〜60%を占めています。
 「もの忘れ外来」では、最初に問診や診察をして、認知機能を検査します。どれだけ生活に機能障害があるかを重視し、問題があればMRIなどで画像検査を行い、原因疾患や重症度の鑑別、診断を総合的に行います。
 血圧、血液検査を含めた内科的疾患も調べます。認知症は、全身の病気の影響をかなり受けるので、こうしたチェックは欠かせません。

MCIの段階で早期発見し認知症への移行を防ぐ

 認知症は、突然発症するわけではありません。認知症の5年ほど前から、軽度認知障害(MCI)と呼ばれる段階があります。MCIはもの忘れの症状が出ても自立可能な状態ですが、そのうち年間およそ10~15%が認知症(多くはアルツハイマー型認知症)に移行します。
 MCIはいわば認知症の一歩手前の段階です。そこで適切な治療や対処を行えば、認知症への移行を抑え、進行を遅らせることができます。

認知症の脳画像診断MRIと脳血流SPECT

 脳の画像検査で通常用いるのは、MRIと脳血流SPECT(スペクト)です。
 アルツハイマー型認知症の患者さんの脳をMRI画像で見ると、海馬が萎縮しており、まわりに黒い隙間が出ます。海馬は記憶の貯金箱のようなものですから、萎縮があると記憶の障害が起こります。
 SPECTという検査は、脳血流の分布から脳の働きを調べ、異常を見つけることができます。
 こうした画像検査をうまく併用すると、脳の変化を評価し、早期診断や鑑別が可能になります。

頭頂側頭葉、後部帯状回の血流低下
赤から黄色・黄緑の部分が血流低下の異常を示しています。
典型的なアルツハイマー型認知症のパターンです。

MRIの診断画像
アルツハイマー型認知症になると海馬(○印)が萎縮して黒い隙間ができ、記憶が障害されていきます。

アルツハイマー病が進行するプロセスとPETを用いた発症前診断

 アルツハイマー型認知症が進行するプロセスは、まず脳のなかにアミロイドβというタンパクの一種が10〜20年ほどかけて溜まり、〝シミ〟のような老人斑が現れます。
 アミロイドβは正常な人の脳でもつくられますが、通常は分解、排出されて増えることはありません。ところが、老化などで産生と分解のバランスが崩れると脳に蓄積されていきます。すると、脳の神経細胞のなかにあるタウというタンパクの異常なリン酸化が起きて神経細胞が死滅していき、その結果脳が萎縮します。
 こうした進行は記憶をつかさどる海馬から始まるので、最初に記憶の障害が起き、やがて病変が脳全体に広がって認知症に至ります。
 アミロイドβの蓄積は、PET(ペット)を用いて評価することができます。南東北病院グループでは、これまでも臨床研究というかたちでアミロイドおよびタウPET検査を行い、診断に役立ててきました。

アミロイドβが溜まっている部分が赤く染まって見えています。
健康な場合、認知機能は加齢とともに緩やかに低下しますが、アミロイドβが長い時間をかけて蓄積すると脳が萎縮すると考えられています。

認知症治療薬「レカネマブ」とアミロイドPET検査

 このたび、日本ではじめてアルツハイマー病の治療薬レカネマブの製造販売が承認され、保険適用されました。2週間ごとに点滴で使用する薬です。
 この新薬はアルツハイマー病の原因とされるアミロイドβに作用し、脳に溜まるのを防いで排出します。しかし、すでに病気が進行し壊れてしまった神経細胞は回復しません。
 レカネマブは、あくまでもアルツハイマー病を背景とするMCI、あるいは早期の認知症の進行を緩やかにする効果が期待される薬です。アルツハイマー病がすべて完治する特効薬というわけではありません。
 ですから薬を使うためには、いかにアルツハイマー病を早期に鑑別診断し、薬の適応となるかどうかを見きわめることが重要です。そのため、アミロイドβの蓄積(陰性、陽性)を、アミロイドPET検査(または脳脊髄液検査)で確認することが必須になるわけです。

認知症の発症や進行のリスクを下げるために

 認知症は、薬だけでなく、全身を総合的にチェックしながら、身体機能を維持し、進行を抑える治療をしていくことが求められます。
 認知症の発症や進行のリスクを下げるためには、生活習慣病の治療、身体的、知的な活動、社会参加などを心がけることが大事です。アミロイドβは通常夜寝ているときに排出されるので、睡眠も大切です。7時間くらいしっかり寝てください。
 仮に75歳でアルツハイマー病を発症するとすれば、その20年ほど前(50歳代)から病気は始まり、5年くらい前の70歳前後からMCIの段階がはじまることになります。
 中年期から認知症を予防する意識を持ち、もしも「もの忘れ」などの気になる症状があれば、早めに専門医を受診してください。

認知症特集 目次

 
はじめに 一般財団法人 脳神経疾患研究所 最高顧問 吉本 高志 先生
認知症の早期診断と最新治療 総合東京病院 もの忘れ外来 羽生春夫 先生
脳と腸 認知症との関わり 東京クリニック 認知症・もの忘れ外来 堀 智勝 先生
酒と認知症の関係について 東京クリニック 総合診療科 北本 清 先生
アルツハイマー病の解明と画像診断 東北創薬・サイクロトロン研究センター 所長 松田博史 先生