メディコンパス/メディコンパス/2010年6月取材:Supports beauty as medical treatment

総合東京病院 形成外科・美容外科センター長/
東京クリニック/新百合ヶ丘総合病院 保阪 善昭 先生に聞く
形成外科の幅広い領域と美容外科

医療としての美容を支えるもの


医療法人財団 健貢会 総合東京病院(旧・東京病院)形成外科・美容外科センター センター長
一般財団法人 脳神経疾患研究所 附属 形成外科・美容外科研究所 所長
保阪 善昭 先生
Dr. Yoshiaki Hosaka
 

昭和大学名誉教授(医学博士)

【 専門科目 】
形成外科、美容外科

【 Profileプロフィール 】
1971年 千葉大学医学部卒業
1973年 昭和大学医学部形成外科助手
1981年   〃  形成外科学教室 専任講師
1982年 昭和大学医学部形成外科学教室 助教授
1985年 カナダに留学
1986年 昭和大学病院形成外科 美容外科診療科長
1996年   〃  形成外科学教室 主任教授
2000年 ハーバード大学 客員教授(MGH)
2004年 大連医科大学・ベオグラード大学 客員教授
2004年 中国協和医科大学 名誉教授
2010年 昭和大学 名誉教授 現在に至る

【 所属学会等から 】
日本形成外科学会(元会長、名誉会員)、日本美容外科学会(元会長、理事長、名誉会員)、日本口蓋裂学会(元会長、名誉会員)、日本美容医療協会(会長、元理事長)、国際美容外科学会(元日本支部長、元現地会長)

【 主催学会 】
第22回 日本美容外科学会/第48回 日本形成外科学会/第15回 日中形成外科学会
第33回 日本口蓋裂学会/第12回 東洋美容外科学会

形成外科は先天性の疾患をはじめ、けがや交通事故などの救急医療、がんの外科手術にともなって失われた体の一部の修復から美容まで、幅広い領域を担います。また、移植や手術痕の修復にも欠かせない役割を果たし、ほかの診療科と連携することも多い診療科です。
たとえば、交通事故などで全身にダメージを受けていれば、命を救う外科手術が成功しても、体の表面の組織が駄目になっていることも多く、それをカバーする形成外科医が必要となります。
〝外観〟や〝話す〟〝食べる〟という機能を再建し、治療後の生活の質(QOL)を保つことは、人が社会生活を送る上で欠くことのできない医療です。
美容医療にとっても、こうした形成外科の高度で専門的なスキルは不可欠なものと言えるでしょう。
キーワードは〝医療としての美容〟。それは患者さん本位で質の高い美容医療を支えるバックボーンにほかなりません。
2010年5月にオープンしたばかりの東京病院(現・総合東京病院)を訪ね、黎明期から形成外科領域を牽引し、美容医療のモラルを築いてこられた保阪善昭先生に、形成外科とは何か、そして美容医療の実情についてうかがいました。

形成外科と美容外科は車の両輪 切り離すことはできません

—保阪先生が東京クリニックで診療を始めたと聞いて、全国の患者さんから受診の問い合わせが相次いでいるそうですが、形成外科と美容外科とはどのような診療科なのでしょうか。
また、両者にはどのような関係性や違いがあるのでしょうか。

形成外科は、主に機能回復とQOL(生活の質)の向上を目的とする専門外科です。これには大別して2つの専門領域があります。
体の一部の異常や変形、欠損などの〝疾患〟を治療対象とするものと、もうひとつは病気ではないけれど、ご自身にとっては大変気になる〝老化〟や〝外観〟を治療対象とする美容外科です。

この2つはそれぞれが独立した標榜科ということになって、対象となる患者さんにも違いが生じることが多いのですが、車の両輪のように切り離すことはできません。

形成外科のベストドクター

—保阪先生は、新聞や雑誌などで形成外科のベストドクターとして紹介されており、特に口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)の手術では日本一の症例数ということですが。

口唇口蓋裂については、私だけでも年間数百例は手術を行っていました。
昭和大学と関連施設を合わせると、日本全体の1割〜2割くらいで、指導した医師、海外から受け入れた留学生も含めれば、相当な数です。

—「形成外科」として対象とするのはどのような疾患なのでしょうか。

形成外科の対象疾患には、口唇口蓋裂をはじめ、先天性の病気として、耳がない小耳症、血管腫やあざ、指が多い、少ない、頭蓋顔面の異常などの形態異常、体表奇形はすべて入ってきます。
また、がんの外科手術などで失われた体の一部を再建することもあります。たとえば頭頚部のがんでは、耳鼻科などで腫瘍をとって、われわれが再建するというケースも多くなります。お腹の腸を使って食道を再建することも診療科の連携のなかで行います。
外傷もあります。交通事故で顔が滅茶苦茶になってしまった場合、私たち形成外科が全部再建します。外傷のなかには熱傷(やけど)も入ります。
手術痕も対象となります。胃がんや乳がんの外科手術にともなって生じる傷を修復します。皮膚の移植をしたり、乳房の再建も行います。これらは、私が得意とする領域です。

年齢的には子どもからお年寄りまで含まれますし、あらゆる体の部位に及びますから、守備範囲はとても広いです。そのため、一般の皆さんにはなかなかイメージがつかみにくいところがあるかもしれません。
ちなみに、臓器移植には形成外科医が強く関わってきたことはご存じでしょうか。最初の腎臓移植でノーベル賞をもらったのも、実は形成外科医です。

保阪善昭先生は形成外科・美容外科の権威。専門書・手引き書、電子教科書などの執筆も数多く、患者数や手術件数などのデータを集めたいわゆる「医療機関のランキング」でも常に高い評価を得てきました。
世界中から受け入れる留学生や、たくさんの教え子のなかには、「国境なき医師団」の一員として紛争地帯で重大な外傷を負った人たちの治療にあたる医師も育っているそうです。

形成外科を専門とする道を選ぶ

—保阪先生が形成外科を専門として選ばれたのは、どのような理由からでしょうか。

私が医者になる頃は、美容外科どころか形成外科という標榜科もまったくありませんでした。
私が勉強していた当時の千葉大学医学部は、耳下腺腫瘍や上顎がんの外科手術で有名でした。
ところが、命を救うことはできても、その後のケアという考え方がまだ十分ではなかった時代です。
眼球がなくなってそのままとか、かわいそうな患者さんがいっぱいいて、そんな患者さんが悩んだ末に自殺してしまう、ということがありました。
人間の顔かたちや患者さんの外観への思いに配慮する大事さを痛感するなかで、私は外科医として歩み始めることになるのですが、ちょうどその頃、昭和大学に形成外科が開設されることになり、それを専門とする道を選んだのです。

美容外科について

—先生のもうひとつのご専門「美容外科」について教えて頂けますか。

美容外科とは、客観的には病気ではないけれど、大きな悩みの種になっている外観を修復し、生活の満足度を向上させる診療科です。
いわゆる変身願望のような、もうちょっと鼻を高くしたいとか、そういう要請に応える手術もありますし、二重瞼にする手術や、えらがはった人のえらを切り落としたり、乳房を大きくしたり、いろいろなものがあります。

最近では外科的な手術をせずに行う、体に負担の少ない治療法が注目されています。
シワ、タルミなら、昔はすぐにフェイスリフト手術をしましたが、今ではまずレーザー治療や、シワをとるためにコラーゲンやヒアルロン酸などを注入するフィラーと呼ばれる治療を行います。糸で吊り上げたり、いろいろなことを試して、それでも駄目なら最後に手術をします。段階を踏みますから、患者さんも治療への不安が少なくなりました。
また、レーザー治療なら、シミをとると同時に皮膚を引き締める効果も期待できます。いわゆるアンチエイジングです。老化した皮膚を若返らせるわけです。

美容医療のモラルと質の向上

—保阪先生は、日本美容医療協会の会長や理事長として美容医療の質的向上と社会的なモラルの実現にも力を注いでこられたとうかがいました。

人間の美容への願望は、社会が蓋をすべきではないと思います。
以前、美容外科の世界はある種の野放し状態で、女性週刊誌などで宣伝情報が氾濫し、乱診乱療が行われる時代がありました。
大手のクリニックなどが営利に走り、結果として手術に失敗した合併症の患者さんが、私たちのところにたくさんやって来ました。そうした事例は今でもありますが、これでは患者さんの利益にはなりません。

なぜこうしたことが起きるかと言えば、美容外科は形成外科のトレーニングを積んだ技術と、デリケートなセンスを要求される診療科であるのに、専門の養成機関も法的に位置づけられていないからです。まったくの門外漢の医師でも、美容外科を標榜できる状況があるのです。
美容外科を日本で初めて標榜した大学病院は昭和大学です。その頃、私はカナダに留学し、西欧人の美容外科を学びました。言わば日本の美容外科の草創期から医師として立ち会ってきたわけです。ですから、美容外科をめぐる状況が正常なものになるように願い、国にも働きかけてきました。一番迷惑をこうむるのは患者さんなのです。

ようやく1991年に日本美容外科学会(JSAPS)が母体となって、厚労省、日本医師会と一緒に「日本美容医療協会」を設立できました。これは美容医療の質的向上と社会的なモラルの実現を目指した社団法人で、今のところ最も信頼できる美容外科の団体ということになっています。

美容医療の新しい姿 気軽にできてアンチエイジングにも貢献

—いわゆる「メスを入れない美容医療」として、治療機器も日々進化しているということですが、美容医療を気軽に安心して受けられる時代がようやくやって来たわけですね。

私たちは、美容外科への信頼が高まるような診療に努めています。
治療前後のカウンセリングを重視し、専門の医師がゆっくりと時間をかけて相談内容を把握し、患者さんにとって一番適切な治療法やドクターを紹介します。特に力を入れているのは、気軽にできて、効果が期待できる、そうした自然なかたちの美容医療を提供することです。光治療やレーザー治療も、かなり良い機器が開発されています。

日本人は長生きするようになっていますし、働く年齢も高くなってきていますから、アンチエイジングにも力を入れています。ビジネスをする上でも、顔のシミはないほうがいいかもしれません。これは簡単にとれます。若く見えますし、きれいです。最新の美容医療はそこに資することができます。
美容医療に関心があっても、実際に受診するのをためらわれる方も多いかと思いますが、クオリティー・オブ・ライフ。生活の質の向上という意味でも、ぜひ気軽に相談し、利用して頂きたいと思います。

アンチエイジング治療の実際について

—実際には、どのような治療が可能なのでしょうか。

最適な治療法は人によって少しずつ違ってきます。どのくらいの日数を治療にかけられるか、休みがとれるか、そういうことも治療法選択の要素に入ります。腫れの少ない治療法もありますから、経営者の方で、時間に余裕のない方も安心です。

一般的に皮膚の表面のすべすべ感なら光治療が向いています。シワの悩みならサーマクールやタイタン。シミや顔色を気にするならレーザー治療が効果的です。機械は何を望むかによって使い分けます。東京クリニックでは豊富な機械のなかで、一番適切なものを使うことができます。注入やボトックスなど、いろいろな複合治療をしていくと、手術をしなくても十分な満足感が得られるところまでたどり着けます。
最初の段階は、光治療やレーザー治療で、一番本人が気にしているところを解決します。それだけでコンプレックスがなくなり、非常に心楽しく毎日を送れるようになります。

「会社経営をしていて銀行と交渉するとき、若々しくて顔色もいいという印象を与えられないと、なかなか申し出を受け入れてくれない」ということで、アンチエイジングの肌治療を積極的に受ける男性の方もいらっしゃいます。

東京クリニックが美容医療や形成外科の羅針盤としての機能を担うとすれば、東京病院(現・総合東京病院)は本格的な手術室であり、入院施設です。もちろん地域医療も担いますが、互いの施設はうまく連携できると思います。
特に美容医療に関しては、安心で質の高い医療サービスを提供したいと考えています。