メディコンパス/2009年12月取材:Kidney disease, hypertension and comprehensive medical treatment

東京クリニック 総合診療内科/メディコンパスクラブ理事
北本 清先生に聞く 腎・高血圧と総合診療

腎疾患、高血圧と総合診療 理想のプライマリケア


メディコンパスクラブ理事
医療法人財団 健貢会 東京クリニック 総合診療内科
北本 清 先生
Dr. Kiyoshi Kitamoto
 

杏林大学名誉教授

【 専門科目 】
総合診療内科、腎・高血圧科

【 Profileプロフィール 】
1940年 東京生まれ
1966年 慶應義塾大学医学部卒業
1971年 慶応義塾大学大学院医学研究科 内科学卒業
1971年 慶応義塾大学医学部内科学教室助手
1978年 杏林大学医学部第1内科講師(腎臓、膠原病)
1980年 同 助教授
1990年 杏林大学病院腎透析センター長
1992年 杏林大学医学部第1内科教授
1998年 杏林大学医学部総合医療学主任教授 総合診療科科長
1999年 三鷹医師会理事(2007年3月まで)
2000年 杏林大学病院副院長
2003年 杏林大学医学部附属看護専門学校校長
2006年 杏林大学名誉教授(現)
2011年 日本腎臓学会名誉会員

日本内科学会(認定内科医)/日本腎臓学会(功労会員、認定医、指導医)/日本透析医学会(認定医、指導医)/日本糖尿病学会/日本高血圧学会/日本プライマリケア学会/日本臨床栄養学会/人間ドック学会/日本老年医学会 

お話しぶりも穏やかで、人柄のあたたかさが感じられる。説明も分かりやすく丁寧で信頼感が湧く。東京クリニックの北本清先生は、そんな評判が聞こえてくるドクターです。
北本先生の専門は、腎炎、ネフローゼ、慢性腎不全などの腎臓病と、生活習慣病の診断と治療。杏林大学では総合診療科を立ち上げ、総合診療医の養成や診療科の質的向上に力をつくしてきました。
診療の内容は多岐にわたります。
ちょっと具合が悪い、と近所のかかりつけ医に相談するようなものから、命にかかわるような疾患まで、初期診療の段階で見極めて必要な専門診療をガイドします。どうも風邪気味だから薬を処方してほしいという患者さんもいれば、がんが疑われる人も訪れるのです。
そんなとき、必要があれば専門医に検査と診断を依頼し、その結果をもとに、必要な次の検査項目を検討します。
北本先生の豊富な医学知識と臨床経験に基づく適切な指示が、診療科をさ迷う徒労をなくし、患者さんの心と体の負担を取り除いていくのです。
初期診療から高血圧などの生活習慣病の管理など、私たちの健康を維持する上で最も身近な総合診療内科。その診療の中身について、北本清先生にお話して頂きました。

総合診療内科について

—総合診療内科とはどのような診療科なのでしょうか。

医学の進歩によって高度医療が推進された結果、大学病院などでは専門別診療体制へ進む傾向がありました。疾病が多様化し、複雑化した結果でもありますが、一人の患者にとっては複数の診療科を次々に受診する負担も無視できません。そこで、細分化された診療科の入り口として、総合的に対応できる新たな診療科が求められ、総合診療科がつくられました。
総合診療医に求められるのは、患者サイドの多様なニーズに対して適切かつすみやかに対応できるような、内科を中心とした総合的臨床能力です。

社会の高齢化が進む今、地域医療の視点からも、患者さんに身近に寄り添い、継続して見守る優秀な総合診療医を求める声も高まっています。医者が専門以外のことは苦手というのでは、患者さんにしてみれば、とても不安なはずです。
日本で各大学に総合診療科がつくられるようになったのは、1990年前後からです。専門分化した医療の世界や、医学部教育への反省という意味もありました。

総合診療科は、振り分け医と呼ばれることもありますが、それは本来の意味とは少し違っています。振り分け医と言うと、患者さんを診療科に振り分けたあとはタッチしないということになりますが、総合診療科の場合は継続的に診ていくことが重要なポイントです。

どちらかと言えば、常にその家族全員の健康状態を把握する〝かかりつけ医〟のようなスタンスです。
アメリカやイギリスなどでは、そうしたホームドクター、いわゆるプライマリケア(初期診療)がシステムとして確立していて、医療全体を支えています。
高度な検査や治療を要する場合に大学病院や地域の中核的な病院にかかるのです。
このプライマリケアの部分を日本でも充実させることが、患者さんにとっても実は有益なのです。

腎臓疾患や膠原病、高血圧などの専門医として、総合診療科の初代教授に就任

—北本先生は杏林大学で総合診療科の立ちあげに携わったそうですが。

私の専門は腎臓疾患や膠原病でしたから、必然的に患者さんとは継続的なおつきあいをして、長い間の経過を診ていくような診療を行っていました。
すると、いろいろな別の病気にも向き合う必要が出てくるし、予防するためにどうしたらいいか、ということも重要なテーマになりました。
そのお陰で専門以外の幅広い知識を得ることができたのですが、そうしたことがベースにあって、大学が総合診療科をつくるときに、私が初代の教授に就任しました。

現在、深刻な医療危機が指摘されるようになっていますが、アンケート調査をしてみると、診療内容の実に8割くらいは総合診療科だけですんでしまうということが分かっています。ということは、総合診療科が充実すれば、専門医たちは研究の時間も増えるだろうし、過酷な労働環境も改善されて、もっといい仕事ができるようにもなるわけです。

ですから、総合診療科の構想は医療システム全体のグランドデザインにも関わってきます。
救急医療や小児科を担う医療現場に大きな負担がかかっている現状の改善にもつながるでしょう。また、別の面では僻地の医療をきちんと担えるような幅広い知識を持った人材の育成ということにも貢献できます。
総合診療を担う医師には、一般の内科診療や健診、ドックにも精通した力量が求められますし、救急への対応力も必要とされます。
子供から老人まで、患者さんの全人格に向き合うような医療人としての資質も必要です。

写真:北本清先生の著作から
専門書から一般向けの解説書まで著作、監修等多数。メディコンパスクラブでは、2014年に北本清先生のお話をもとにブックレット「健康維持のために覚えておきたい数値」をまとめました。

高血圧は大敵、血圧管理が大切

—血圧の管理はどのように考えればよいのでしょうか。

男性の場合、50歳を越えると2人に1人は高血圧と考えられます。
脳血管や心血管系の疾患死は、上の血圧(収縮期血圧)の数値が高くなるほどリスクが高くなります。つまり、高血圧になると、「心筋梗塞」や「狭心症」「脳卒中」などになりやすいわけです。しかも、そこに糖尿病を合併している場合は、それぞれの数値全体が大幅に上昇しますから、糖尿病は治療すべきです。

血圧は、できれば上が140未満、下が90未満というレベルを保って頂きたいと思います。血圧には日内変動というものがありますから、最近は朝の血圧を治療の参考にします。朝、起床後1時間以内の排尿後で、朝食前、服薬前に座位で1〜2分の安静後に測定して下さい。上が135以上だと、高血圧として注意したいレベルです。

なぜ朝が大事かというと、朝、血圧が急激に上がるケースがあることと、もうひとつは普段診察室で測定すると、特に高血圧というわけでないのに、寝ている間に高くなる仮面高血圧と呼ばれものがあって、それが一番脳卒中を起こしやすいという研究もあるからです。
実際に、脳梗塞、狭心症、心筋梗塞、心臓突然死などの発病は、早朝のちょうど起床する直前の時間帯(午前4時から6時まで)と、起床後1〜2時間くらいがピークになります。

血圧の治療を受けている方なら、朝、食事の前に安静をとって血圧をはかって下さい。それで上が135、下が85をきるのが安全の指標です。

—血圧の薬は、1日のなかでいつ飲めば良いのでしょうか。

血圧の薬は、朝方の血圧の急上昇に備えるという意味で、夕方から寝る前に服用するのが一つの方法です。
ただし、血圧の薬は非常に進歩していて、どんどん新しくて良いものが開発されています。だいたい1日中効くようになっていますから、食後などの決まった時間に飲んで、飲み忘れしないように心がけてほしいと思います。
時間薬理学といって、症状と合わせた飲み方の研究も進んでいます。もしもコレステロールの薬なら、コレステロールは夜、肝臓でつくられますから、夕食後に飲んだ方がいいだろう、という考え方になります。

早朝起床時に多発する脳心血管疾患
A:(Marler JR:Stroke 20:473-476,1989)
B:(Michael B.Rocco. et al.: Circulation 75:395-400,1987)
C:(Muller JE. et al.: N Eng J MED21:1314-1322,1985)
※グラフ内のnの数字は、統計上の母数を示しています。

人間ドックなどをもとに健康管理をアドバイス

—メタボなど、いろいろなチェックポイントを踏まえた健康管理のアドバイスもお願いできるのでしょうか。

血圧とともに注意したいのはメタボです。生活習慣病には、高血圧、高脂血症、糖尿病などがありますが、軽症であっても肥満、特に内臓脂肪型の肥満と複数の生活習慣病の合併があると、さらに大きな病気を引き起こすリスクが高くなります。
そうした状態をメタボリックシンドロームと言いますが、最近では、CKD(Chronic Kidney Disease)という慢性腎臓病が新たな国民病として注目されてきています。

CKDとは、腎臓の働き(GFR)が低下したり、あるいはタンパク尿が出るといった慢性的な腎障害のある状態を指しています。一種のシンドロームで、心血管疾患、心筋梗塞や脳卒中を引き起こす確率が高まります。
メタボリックシンドロームがCKD発症に影響を及ぼしていることは、疫学調査結果から認められています。
年をとると腎機能は低下していきますから、高齢になるほどCKDが多くなります。
メタボの男性は腎機能の障害で人工透析になる比率が高いという報告もあるので、生活習慣の見直しはCKD予防からも求められます。
しかし、男性の内蔵脂肪はつきやすい一方、積極的な食事の改善や運動療法をするだけでも取れやすいので、心配な方は早めに対策を始めてほしいと思います。

メタボという言葉は知っていても、人間ドックなどの検査数値はなかなか理解しにくいものです。
過食、運動不足や肥満が気になる方、生活習慣病予防のためのセルフケアをしていきたい方には、人間ドックの検査数値などをもとにして、それぞれの体の状態にあったアドバイスを心がけています。

手術を受けたら、誰かに治してもらうという考え方ではなく、
自分で治るという気持ちが大事

—発見が難しいと言われる膵がんで、最近手術を受けたそうですが。

自慢じゃないですが、私は患者になった経験も豊富です(笑)。ですから患者さんの立場や気持ちもよく分かっているつもりです。
病歴は11歳で虫垂炎手術。16歳で急性腎炎。43歳で内痔核と結腸ポリープ切除。60歳で高血圧。現在治療中です。
69歳のときには早期の膵がんが見つかり、手術を受けました。つい最近のことです。総合南東北病院のドックを受け、たまたま発見できました。やはり定期的なドックは大事です。

手術を受けたら、自分の生命力を信じて、体を動かすようにしたほうがいいです。誰かに治してもらうという考え方ではなくて、自分で治るという気持ちが大事です。
私の場合は手術から3カ月後にはゴルフ場のコースに出て、クラブを握っていました。何せ70歳からのハンディアップを目指していますから(笑)。現在のハンディは14です。これをシングルにするつもりです。それが私の健康の秘訣と言えるかもしれません。

総合診療内科の外来では継続的な診療とアドバイスをしていますから、皆さんのホームドクターのように、継続して健康管理のお手伝いをしたいと思います。
体の調子が悪いと受診された方の中には、がんの患者さんや肝障害など、さまざまな病気が見つかることもあります。東京クリニックの総合診療内科は、診療の入り口としての役割とともに、診療のプラットホームとしても機能しています。