新百合ヶ丘総合病院 肝疾患低侵襲治療センター/内視鏡センター センター長
國分茂博先生に聞く ラジオ波焼灼療法 血管内治療 サイバーナイフ
肝がん、食道・胃静脈瘤の最新治療
医療法人社団 三成会 新百合ヶ丘総合病院 肝疾患低侵襲治療センター/内視鏡センター センター長
一般財団法人脳神経疾患研究所 附属 肝疾患低侵襲治療研究所所長
國分 茂博 先生
Dr. Shigehiro Kokubu
【 専門科目 】 |
「肝臓は、消化管から吸収された栄養物の代謝、たんぱく質の合成、解毒などをつかさどる重要な臓器です。
ところが沈黙の臓器と呼ばれるように、障害が起きてもなかなか自覚症状が現れず、気づかないうちに肝硬変や肝がんに進んでしまうことがあります。肝機能障害などを定期的にチェックし、早期発見と早期治療を心がけることが大切です」
そう説明する國分茂博先生は、肝がん治療のスペシャリスト。新百合ヶ丘総合病院では、肝疾患低侵襲治療センター長と内視鏡センター長を兼務されています。
特にラジオ波を用いた肝がん治療や、肝硬変を原因として引き起こされる食道・胃静脈瘤の内視鏡・カテーテル治療では、北里大学、順天堂大学を通して臨床の第一線を担い、医療技術の指導、普及にも努めてきました。
「新百合ヶ丘総合病院では、肝がんへのサイバーナイフ治療も本格的に進めていきたい」と語る國分先生。患者が生きようとする人生を尊重し、肝がん治療の選択肢を広げています。
國分茂博先生に、肝臓疾患をめぐる現在の状況や、肝がん、食道・胃静脈瘤の最新治療についてご紹介頂きました。
新薬開発によってB型、C型肝炎をめぐる状況が変わる
肝がんの主な原因は、70パーセントがC型肝炎、15パーセントがB型肝炎と言われています。現在、日本のC型肝炎は、主に輸血や予防接種によって感染が広まったものと考えられています。ウィルスと言っても、普通に暮らしていれば感染することはありません。
治療薬としてインターフェロンが有名ですが、これまでのインターフェロン治療でウィルスを駆除できるのはC型肝炎の約5割です。
ところが最近、新薬が保険適応になって、そろそろC型肝炎は終息するのではないかと言われています。
新薬の飲み薬でC型肝炎の95%くらいが治るかもしれないのです。
B型肝炎も薬でコントロールできています。しかし、血液検査をすると、見かけ上はB型肝炎が消えても、細胞の核の奥のほうに、遺伝子型のウィルスが残っていることがあります。
つまり、これまではC型のほうが重いという印象がありましたが、将来的にC型はなくなり、B型は残ります。B型肝炎の方は、肝硬変、肝がんになる要素を一生持つことになり、高齢になって急に肝がんを発症することが今後も考えられるのです。
肝がん治療と、食道・胃の静脈瘤治療が専門
私の診療科は消化器内科ですが、主な対象疾患は肝がんと食道・胃の静脈瘤で、治療面を専門としています。学問的に言えば、肝がんと門脈圧亢進症の治療が専門ということになります。両者は、肝硬変から出てくる病変ということで共通しています。
肝がんの治療では主に「ラジオ波焼灼療法」、食道・胃の静脈瘤では「内視鏡・カテーテル治療」に取り組んできました。これらは大きな意味でIVR(インターベンショナル・ラジオロジー)という呼び方でくくることができます。
ラジオ波焼灼療法は、肝がんの治療法としてご存じだと思いますが、「食道、胃の静脈瘤を内視鏡やカテーテルで治療しています」と言うと、「肝臓の医師が胃ですか?」とよく質問されます。(笑)
しかし、胃静脈瘤の約9割が、実は肝臓の病気である肝硬変が原因なのです。
写真左:國分茂博先生の著作から
写真右:日本肝臓学会総会パネルディスカッション(司会)にて
エタノール局所注入治療から体に優しいラジオ波焼灼療法へ
ラジオ波焼灼療法は、まだ新しい治療法で1999年頃から日本で行われるようになりました。電極の針を肝がんの局所に刺して、低周波の熱で焼いて治療します。2000年から3社で治験が行われ、私も2社の治験に携わりました。
ラジオ波が普及する以前は、局所にエタノールを注入する治療が行われ、私も、肝がん約400例をこの方法で治療しました。施術数は合計1300回にのぼりますが、1999年を境にラジオ波に移行しました。
局所エタノール注入を行うと、3〜4回の治療でがんは壊死します。ところがラジオ波なら1回ですみます。強力ではあるけれど、周波数は小さくて体に優しい治療法です。それだけでも画期的なわけですが、その後もラジオ波焼灼療法は進化を続けています(図1)。
ラジオ波焼灼療法の進化
ラジオ波焼灼療法のデバイス、つまり針は、最初はモノポーラという単極のものを使っていました。しかし、現在はバイポーラという双極のものを使うようになっています。
モノポーラは、1本の針を刺して、3センチくらいラジオ波で患部を焼くことができますが、バイポーラは電極を2本刺します。それによって治療時間を短縮できます。2センチまでなら、がんを切り取るという手法が可能で、オペの一種と考えることもできます。さらに電極が3本ある複数針のものも開発されていて、私も治験に参加しています。
ラジオ波を使った治療をするときには、超音波画像を確認しながら行います。今ではその画像も、CTやMRIの画像を取り込んで、超音波画像にリアルタイムに重ね合わせたフュージョン画像として見ることができます。
患部の周囲もよく見えますから、より正確で安全な治療が可能になっています(図2)。
図1(左):肝がんのラジオ波焼灼療法のイメージ
國分先生が治験を行った複数電極針ラジオ波熱凝固療法(肝がんのバイポーラ穿刺焼灼法)
図2(右):V-navi下GPS機能を用いたラジオ波治療画像
超音波とCTの融合画像(Fusion Image)にGPS機能を付加し、両画像の位置を線ではなく、点で一致させ、肝癌を穿刺します。
V-navi下GPS機能を用いたラジオ波治療画像:超音波とCTの融合画像(Fusion Image)にGPS機能を付加し、両画像の位置を線ではなく、点で一致させ、肝癌を穿刺します。
肝がん治療におけるサイバーナイフという選択肢
ラジオ波焼灼療法は体に優しい治療法です。しかし、それでも治療が難しいケースがあります。
私の場合は幸いにして2千数百回の施術で亡くなった患者さんはいませんが、心臓の近くに針を刺す場合、患者さんがたまたま動いてしまって、心筋梗塞を起こす場所に針が一瞬でもあたってしまうと、場合によっては心不全で亡くなってしまうことがあります。
また、なかにはパニック症候群といって、デバイスの針を刺すこと自体を受けつけない患者さんもいます。
ですから、新百合ヶ丘総合病院では、安全な別の選択肢としてサイバーナイフ治療も提示できるようにしたいと考えています。適応にあたっては、放射線、外科、内科、消化器科の専門医と、私たちがチームを組んで症例を検討し、最終的には私が治療法を判断します。
新百合ヶ丘総合病院のサイバーナイフは、狙った場所を追尾します。肺の呼吸、心臓の拍動も考慮して正確な治療をする追尾システムが働きますから、肝がんへの適応も期待できます。
私が当院に赴任したのは今年の4月ですから、私がコンサルトを受けたサイバーナイフの適応はまだ10数例ほどです。検討した結果、やはりラジオ波がいいというケースが半数以上でした。
肝がんの治療にサイバーナイフが本格的に利用されるのはこれからです。
サイバーナイフを使うときには、私たち肝臓の専門医が一緒に立ち会って治療できればと思っています。
転移性肝がん治療は他科との診療連携が重要
B型肝炎、C型肝炎、あるいは、ほかの肝硬変から肝がんになる場合、それは肝細胞がんです。しかし、肝がんには転移性のものもあります。
ある患者さんは、肺がんが肝臓に転移していました。外科では手術をすすめたのですが、その患者さんは、写真家でかつ音楽家で、手術は肺活量が落ちるから嫌だという意向があり、呼吸器外科からの紹介を受けてラジオ波焼灼で治療しました。
大腸がんの肝転移という患者さんも最近多いようです。大腸がんの手術後に肝転移が見つかった患者さんは、抗がん剤治療を受け、22ミリあったがんが10ミリまで小さくなりました。ところが最近では抗がん剤を使うと意識がなくなるという副作用が出るようになってしまい、それでは抗がん剤治療を続けられませんから、外科から相談を受けてラジオ波で治療しました。
この2つの例はともに他科からの相談です。転移性肝がんはほかの診療科との連携が大切になります。
新百合ヶ丘総合病院の医療体制
新百合ヶ丘総合病院は他科との連携がとても良い病院です。ですから治療法も、患者さんの状態に応じて多様な選択が可能になっています。
医師の人員体制も充実しています。現在、肝臓専門医と内視鏡専門医の人数は、それぞれ8名です。両方に重なっている医師もいますから、医師の総数は11名です。肝がんをいろいろな角度から検討して治療することができます。
肝がんの学会は横のつながりも良くてネットワークも充実していますから、ほかの大学病院などから患者さんの紹介を受けることもよくあります。新百合ヶ丘総合病院では、そうしたケースが今後も増えていくでしょう。
食道や胃の静脈瘤と孤立性胃静脈瘤の血管内治療
食道や胃の静脈瘤は、肝硬変にともなってできる病変です。
胃や大腸から肝臓に栄養を運ぶ門脈という静脈の血液が肝硬変によって流れにくくなり、血管内の圧力が高くなってこぶのような静脈瘤ができるのです。内視鏡検査で見つけることができますから、早めに発見したい病変です。
食べ物が毎日3回通る場所に破裂する可能性のある静脈瘤を常に抱えているわけですから、これは危険です。破裂すれば大量出血を起こし、ショックで肝不全を併発したり、血流が速いところなら患者さんの半数ほどが命を落としてしまいます。
救急搬送が大至急必要です。こうした場合、内視鏡でまず止血をして、適切な治療法を判断します。
胃の入り口付近なら口から内視鏡を入れて治療できるケースもありますが(図3)、胃の上部にできる静脈瘤(孤立性胃静脈瘤)は血流が早いため、治療が難しくなります。
治療法としては、カテーテルを首や脚のつけ根の静脈から入れて静脈瘤に硬化剤を流し込む方法があります。大きな静脈瘤も1〜3カ月程度で消失させることができ、再発もほとんどありません(図4)。
肝硬変になった60代女性の症例では、こうした硬化剤を注入する血管内治療によって静脈瘤が消え、門脈から肝臓に流れる血液量が増えました。
その結果、有害物質の肝臓での分解が促され、病状も改善しています。
血中のアンモニアは治療前の3分の1程度に下がり、女性の意識もはっきりするようになりました。
ところが、この硬化剤は保険がききません。そこで私たちは薬事承認を目指し、新百合ヶ丘総合病院で医師主導の治験を始めています。硬化剤の治験の話は新聞でも記事にしてくれましたが、厚労省で認可されるまで、これから3年かかります。(注:2017年6月25日薬事承認されました。)
肝硬変も、肝がんも、胃の静脈瘤も早期発見が大事です。その上で、患者さんが望み、納得できる治療法が選択できるようお手伝いできればと考えています。
図3(左):食道胃噴門部静脈瘤に対する内視鏡的硬化療法
肝硬変を原因としてできる食道・胃の静脈瘤に対する内視鏡的治療の様子
図4(右):孤立性胃静脈瘤に対する経カテーテル治療
(BRTO:バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術)の一例