The world’s highest level of Thoracic Surgery, and lung cancer surgery
新百合ヶ丘総合病院 呼吸器センター センター長/呼吸器外科統括部長 小田 誠先生に聞く
呼吸器外科—肺がん手術の最前線
世界最高水準の呼吸器外科医療を
最新の胸腔鏡手術とロボット手術「ダヴィンチ da Vinci」
新百合ヶ丘総合病院 呼吸器センター センター長/呼吸器外科統括部長
小 田 誠 先生
Dr. Makoto Oda
呼吸器外科
【 専門分野 】
肺がん、縦隔腫瘍、胸壁腫瘍、気胸、胸腔鏡手術、ロボット手術
医学博士/日本外科学会専門医・指導医/
呼器外科専門医/日本呼吸器外科学会指導医/
日本胸部外科学会指導医/日本呼吸器学会専門医/
日本呼吸器内視鏡学会気管支鏡専門医・指導医/
日本呼吸器外科学会評議員/日本内視鏡外科学会評議員/
日本呼吸器内視鏡学会評議員/癌治療認定医/
ダヴィンチコンソールサージャン
【 Profileプロフィール 】
1984年 金沢大学医学部卒業
1990年 金沢大学医学部附属病院第一外科助手
1997年 同講師
2004年 石川県立中央病院呼吸器外科部長(05年がん診療センター長併任)
2006年 金沢大学附属病院呼吸器外科臨床教授 兼 金沢大学大学院医学系研究科准教授
2014年 ニューハート・ワタナベ国際病院病院長 兼 呼吸器外科部長
2016年より現職
◎1992年7月~1993年9月/ハイデルベルク大学
Thoraxklinik Heidelberg 胸部外科(ドイツ)留学
(年間2000例以上の呼吸器外科手術が行われています)
Thoraxklinik at Heidelberg University Hospitalホームページから
◎2002年2月/文科省短期海外派遣
「胸部外科領域における遠隔操作用ロボットの開発動向調査」
East Carolina大学(米国)
◎2018年9月/上海同發大学肺科医院
「Uniportal VATS training course」
小田誠先生が、“The Best Doctors in Japan 2018-2019”に選出されました
“Best Doctors”とは、ベストドクターズ社が、膨大な数の医師に対して 「もし、あなたやあなたのご家族が、あなたの専門分野の病気にかかった場合、 どの医師に治療をお願いしますか?」とアンケートを行い、その中で治療能力、 研究成果、最新医学情報への精通度などを考慮した上で、ある一定以上の評価を得た医師を名医(Best Doctors)と認定しているものです。
がんは国内における死亡原因の約3割を占めます。その中でも肺がんは、がん死亡原因のトップ。進行も早く、治りにくいがんです。
「しかし、早期発見できれば8割の方は治る可能性があります。ですから、いかに早期発見できるかが大切になるのです」
そう指摘するのは新百合ヶ丘総合病院呼吸器センターセンター長に就任された小田誠先生です。
小田先生は、金沢大学附属病院呼吸器外科で20年以上にわたる経験を持つ肺がん手術のエキスパートであり、胸腔鏡手術のパイオニアでもあります。
主に扱う疾患は、肺がん、縦隔腫瘍、胸壁腫瘍、気胸などの呼吸器疾患。
1992年から1年3ヵ月間、ドイツのハイデルベルク大学胸部外科病院で呼吸器外科のあらゆる手術手技を学び、2002年にはアメリカでロボット手術を習得、帰国後は日本でのロボット手術の先駆けとして、縦隔腫瘍、肺がんの肺葉切除手術を行いました。
呼吸器外科のベストドクターとして著名な小田誠先生に、肺がんをめぐる日本の現状と最先端の胸腔鏡手術、そして新たに公的保険の適応となったロボット手術について解説して頂くとともに、肺がん早期発見のポイントについてうかがいました。
新百合ヶ丘総合病院の呼吸器外科と肺がん治療
当院の呼吸器外科では肺がん、気胸、縦隔腫瘍、胸壁腫瘍などの手術を行っています。手術の半数以上は肺がんで、早期の肺がんに対する胸腔鏡手術から進行肺がんに対する拡大手術まで、病態や全身の状態に応じて、患者さんにとってより良い治療法を一緒に考えながら決めています。
肺がん全体のなかで、手術の適応になるのは60%くらいです。肺がんのステージが上がれば、呼吸器内科や放射線科とコラボした治療を進めていきます。
新百合ヶ丘総合病院はチーム医療が充実しています。呼吸器内科、放射線診断科、病理診断科、リハビリテーション科など、他科との連携は緊密で、ベストな治療が行える体制にあると思います。
小さな切開で手術の痛みを抑える最先端の「胸腔鏡手術」とは
肺がんは5年生存率が約30%と、非常に治りにくいがんです。それだけにいかに早期発見できるかがとても大切になります。早期に発見できれば、体に負担の少ない胸腔鏡手術が可能であり、80%の方が治る可能性があります。長期生存される方も増えてきています。
以前の肺の手術は肋骨を折って30センチほど開胸して行いましたから、胸の肋間神経を痛めてしまい、胸の手術は一番痛い手術に分類されてきました。そのため、私はできるだけ患者さんの痛みを抑えた体に優しい手術を実現したいと考え、金沢大学附属病院時代から胸腔鏡手術を進めてきました。
胸腔鏡手術は開胸せず、約1センチ~2センチの穴を3〜4ヵ所開けて、細くて長い手術器具(鉗子)やビデオスコープを挿入して手術します。体への負担や痛みも軽減される画期的な手術ですが、それでも胸の間にポートと呼ばれる円筒を留置する必要があるため、肋間神経への障害は完全にはなくならず、ある程度の痛みが生じてしまいます。
こうした問題を解決するため、新百合ヶ丘総合病院では、最先端の胸腔鏡手術も行っています。例えばわれわれが開発した「肋弓下経横隔膜アプローチ」(画像A‒1、A‒2)と呼ばれる方法は、肋間神経を避けて主に横隔膜からるアプローチするもので、痛みを最小限に抑え、術後の傷もほとんど残りません。
また、複数レベルでの肋間神経損傷を避けるため、1肋間にだけポートあるいは切開創をおいた「単孔式手術」(画像B)も疾患に応じて施行しています。
このように、胸腔鏡手術の発展によって個人差はありますが、肺の一部の切除でも肺葉切除(片方の肺の1/2~1/3を切除)でも、術後1日ないし2日で退院し、早期の社会復帰が実現できます。
肺がんのステージと手術について
がんのステージ、つまり進行度はⅠ期からⅣ期まであります。治療法は、肺がんの進行度によって変わりますが、現在のエビデンスから言うと、Ⅰ期からⅡ期の非小細胞肺がんは手術が一番適していると言えます。
肺機能が悪くて手術ができない、あるいは手術したくないという人に対しては、放射線治療や陽子線治療を選択することも可能です。
ステージが上がってⅢ期の方や、肺がんが進行してリンパ節転移があるような場合には、手術後に抗がん剤治療をしたり、先に抗がん剤と放射線治療をしてから手術をしたり、分子標的薬を使う場合もあります。
Ⅲ期というと、以前は延命治療に近かったのですが、今では4割くらいの方で5年生存率が得られるようになっています。
国内におけるロボット手術の先駆けとして
ロボット手術は、縦隔腫瘍と肺がんの肺葉切除について公的保険の適用になりました。すでにアメリカを中心として海外では盛んに肺のロボット手術は行われています。
私は2002年にはアメリカで「ダヴィンチ」を用いたロボット手術を学び、帰国後2010年に縦隔腫瘍、2011年に肺がんの肺葉切除手術に成功しています。ところが、国内では肺がん領域で保険適用になるのに時間がかかりましたから、なかなかロボット手術は普及しませんでした。
新百合ヶ丘総合病院には、ロボット手術で用いる最新の「ダヴィンチ」が導入されているので、今後は肺がん領域でも力を入れていきます。
「ダヴィンチ」によるロボット手術は、体のなかを3次元で拡大視することが可能であり、しかも実際に両目で見ているように手術ができます。手の指の動きと同じように機械が動き、難しい動きでも自由に操作することができます。ですから、腹腔鏡の鉗子よりもはるかに緻密で細かい作業が可能になり、より安全な手術に寄与するものと考えられています。
しかし触覚がないため、それを医師が補って使いこなさなければならず、ある程度の手術経験は必須です。
ロボット手術が保険適用になった理由としては、患者さんの痛みが少ないことと、胸腔鏡手術とくらべてより精緻な動きができるので、肺を切ったときにも空気の漏れが少なくなり、在院期間も短くなるのではないか、ということが挙げられます。
一般的にロボット手術のほうが社会復帰が早くなる可能性もあり、今後は国内での普及が進んでいくでしょう。
ただし肺の手術は、胸腔鏡手術もロボット手術も、ともに数ヵ所の小さな切開から鉗子などを入れて手術するので、患者さんにとってはあまり違いは感じないかもしれません。当院では胸腔鏡手術でも、肺がんの部分切除、区域切除、肺葉切除を問わず術後2日後の早期退院が実現していますし、胸腔鏡手術のほうがより小さな傷で手術できる場合もあります。一方、太った方であれば、ロボット手術のほうが体の中を見ながら操作できるので、より安全な手術が可能になると思います。
いずれにせよ、手術の選択肢は増えました。症例を選択してロボット手術も発展させていきたいと考えています。
肺がん治療の選択肢と早期発見・早期治療の大切さ
これまでの肺がん手術では、肺の下葉にがんができると下葉すべてを摘出するのが原則でした。しかし現在では、がんの早期発見が可能になったことで、肺の切除範囲を最小限にとどめることができるようになっています。こうした点からも、早期発見の重要性がお分かり頂けると思います。また、患者さんによっては手術すれば絶対治るという症例でも、やはり手術はしたくない、ということもあるかもしれません。そうした場合、私たちは手術の意義についてご説明しますが、患者さんの気持ちになって一緒に納得のいく治療法を考えます。その際、治療の選択肢を多くする意味でも早期発見は大事なのです。
肺がんはⅠ期、Ⅱ期の患者さんの場合、ほぼ無症状です。では、どうやって早期発見するかということですが、喫煙者では40歳を過ぎたら低線量CTスキャンによる検診をおすすめします。早期に肺がんが見つかれば、より小さな傷で、切除する肺もより少なく、より早い社会復帰が可能です。
肺がんの早期発見に限ると、胸部レントゲン検査よりもCTスキャンのほうが肺がん検出率が高く、死亡率も低くなることが分かっています。
検査で使われるのは被ばくの影響の少ない低線量CTですから、喫煙される方は1年に1度、喫煙されない方や女性の方でも肺がんは増える傾向にありますから、2年に1度は受診されるのが良いかと思います。
PET—CTがんドックなら、肺がんの早期発見にも有効ですし、一度に全身のがんをチェックできるメリットもあります。日頃から検診、ドック受診を心がけ、早期発見、早期治療に努めて頂ければと思います。
紹介記事掲載書籍等
『がん—命を託せる名医』
熱い志で奮闘する医療現場の精鋭たちその技と素顔 出版社: 世界文化社 (2012/9/21) (P.44に掲載)
『手術数でわかるいい病院 2012』
出版社: 朝日新聞出版週間朝日ムック (2012/2/29)
『PRESIDENT (プレジデント)2012年 9/3号』
出版社: プレジデント社; 月2回刊版 (2012/8/11)