メディコンパス/2019年12月取材:Advanced Neurosurgery

総合東京病院 脳神経外科 小児脳神経外科センター部長/科長
酒 井 淳 先生に聞く 難易度の高い手術を担う 総合東京病院 脳神経外科

米国留学し、福島孝徳研究室で脳の解剖と手術手技を学ぶ
1人でも多くの患者様を救うために、1日1日全力を尽くしています。


医療法人財団 健貢会 総合東京病院 脳神経外科 小児脳神経外科センター部長/科長
東京クリニック 脳神経外科
酒 井 淳 先生
Dr. Jun Sakai
 

【 専門分野 】
脳神経外科
● 日本脳神経外科学会認定 脳神経外科専門医
【 Profileプロフィール 】
1993年 札幌医科大学 卒
1994年 札幌医科大学 脳神経外科
1995年 北海道立小児総合保健センター 小児脳神経外科
1996年 王子総合病院 脳神経外科
1996年 札幌医科大学 脳神経外科
1998年 留萌市立病院 脳神経外科
2000年 王子総合病院 脳神経外科
2004年 釧路脳神経外科病院
2007年 砂川市立病院 脳神経外科
2008年 ウェストバージニア大学脳神経外科
2011年 福島孝徳記念病院(現塩田記念病院)脳神経外科
2012年 医療法人財団健貢会 総合東京病院 脳神経外科
現在に至る

 

酒井淳先生は小児脳腫瘍のエキスパート。頭蓋底(ずがいてい)手術のスペシャリストでもあります。脳神経外科医としてアメリカに留学し、福島孝徳先生のもとで脳の解剖や手術手技を学びました。
現在は、脳腫瘍、顔面けいれん、三叉神経痛などを中心に脳疾患全般の診断および治療に取り組み、福島孝徳先生とともに難易度の高い脳神経外科手術を手がけています。
特に総合東京病院の「小児脳神経外科センター」では全国的に専門医療が受けにくい小児脳腫瘍の高度な手術を提供し、たくさんの子どもたちを脳の病気の苦しみから救ってきました。子供さんに優しく、ご家族への説明も丁寧。「小児脳腫瘍のトップエキスパート」として福島孝徳先生からも実力を認められています。
酒井淳先生に、脳の深奥に挑む頭蓋底手術や、福島孝徳先生との出会い、脳の病気を予防する上でのポイントなどについてうかがいました。

脳の最奥部—頭蓋底腫瘍に挑む

—ご専門について教えてください。

専門は脳神経外科です。脳腫瘍などの診断および治療を行います。総合東京病院では、脳神経外科一般外来と、専門外来として脳腫瘍外来を担当し、世界的に高名な脳神経外科医である福島孝徳先生のもと、「小児脳神経外科センター」では小児の脳の病気の診断や治療を行っています。同じ病院グループの東京クリニックでも、脳疾患全般について診療にあたっています。
脳腫瘍の手術は、頭蓋咽頭腫、髄膜腫、神経鞘腫などの頭蓋底腫瘍が主な対象となります。
脳外科が扱う病気のなかでも、頭蓋底腫瘍は特殊なものと言えます。頭蓋の最も深い中心部にできる腫瘍だからです。そのため、外科手術で開頭しても腫瘍まで到達するのが困難ですし、脳の重要な部分は細い神経や血管がたくさん取り巻いていて複雑ですから、それらを傷つけないように手術を進めなければなりません。脳神経外科の世界でも、命に直結する難易度の高い手術になります。
南東北病院グループは、もともと脳神経外科領域の先進的な高度医療を提供していますが、 総合東京病院には福島孝徳先生による「脳腫瘍センター」があり、こうした難しい手術が可能です。
私は福島先生のもとで解剖や手技を学び、頭蓋底手術の研鑽を積んだ関係から、まだまだ治療できる施設が少ない状況にある小児脳腫瘍など、脳の病気に苦しむ患者さんを1人でも多く救いたいと考え、福島先生とともに当院での診療に取り組んでいます。

福島孝徳先生との出会い

—脳神経外科医になられた理由は何でしょうか。

脳の病気は命にかかわります。脳は意識やさまざまな機能の中枢であり、後遺障害があれば社会生活や人生に影響します。もしも目の前で意識がなくなって倒れている人がいれば、その人を救いたい。脳を専門にすれば、そうした患者さんを救えるのではないか。そう考えたことが脳神経外科医になろうとした理由です。

—福島孝徳先生との出会いについてうかがえますか。

脳神経外科医になって北海道の釧路で手術をしていたとき、福島先生と一緒に手術室に入る機会がありました。
私はまだまだ未熟でしたが、福島先生に指示していただきながら手術をしていくと、これは自分にはとても不可能と思えるような症例でも、すっと腫瘍が取れてしまうのです。こんなことがあるんだと驚き、とても感銘を受けました。
頭の奥の手術は、解剖の知識が不可欠です。顕微鏡手術をする際、この向こうに何があるのかはとても重要な問題です。それが分からなければ手術はできません。
福島先生は頭蓋底、つまり脳の奥にどうやって到達するかという点でも高い技術をお持ちですが、それを可能にしているのは詳細な解剖の知識です。
事実、福島先生は解剖を非常に重視しています。解剖の知識があるから、難しい頭蓋底手術も可能になるのです。そのことを痛感した私は、アメリカに留学して福島先生の研究室で解剖を学ばせていただこうと決意しました。

アメリカへ留学—脳の解剖を学ぶ

—アメリカ留学ではどのようなことを学ばれたのでしょうか。

現在、福島先生の研究室があるのはデューク大学ですが、当時はデューク大学とウェストバージニア大学の両大学に研究室があり、私はウェストバージニア大学に2年半留学しました。
アメリカでは、研究のために献体してくれるシステムがあり、生体に近い状態で解剖を学べる環境があります。福島先生の研究室は、とりわけそれが充実していました。献体に触れて実際の手術と同じことを学び、技術を習得することは、とても大切です。脳の奥にある血管や神経のことが分かると、それまで手をつけることもできなかった脳の奥にも安全に到達し、手術ができるようになります。
福島先生の研究室では、新しいアプローチ法の探究も行いました。じっくりとご指導いただき、とても意義深い研鑽ができたと思います。

脳ドックと生活習慣病の予防

—脳の病気を予防するために心がけるべきことは何でしょうか。また、脳ドックの意義についてご紹介願えますか。

福島孝徳先生がいつもおっしゃるとおり、脳ドックは有意義です。
脳ドックは主に脳卒中などの予防に貢献します。くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤の破裂や、脳の血管がつまる脳梗塞などの脳血管の障害を見つけ、脳腫瘍の有無も確認できます。
脳卒中は命の危険にも直結しますし、命は助かったとしても半身の麻痺や言語障害などの重大な後遺症に繋がりかねません。定期的なMRI、MRA検査で脳や脳血管をチェックして早期発見、早期治療に努めてほしいと思います。
MR検査は磁石を利用して脳の断層撮影と血管撮影を行います。体に何か悪い影響をすることはありません。以前は開頭して見るしかなかった頭の中の様子が、何のリスクもなく鮮明な画像として得られます。
脳ドックには、動脈硬化をチェックする頸部の超音波検査や、血液検査、心電図などの検査も含まれます。
40歳代になったら、脳ドックはぜひ受けてほしいと思います。さらに年齢が上がれば、1年に1度チェックするのも良いでしょう。もちろん1年の間に病気が急激に悪くなるということもゼロではありません。動脈瘤などの問題がある人なら半年に1度ということもあり得るかと思います。
脳の病気にならないよう予防する意味で気をつけたいのは食事や高血圧、喫煙、肥満です。
食事なら、塩分、カロリー、脂肪。塩分は高血圧、カロリーは血糖値、脂肪は高脂血症の要因になります。バランスの取れた食事が大事です。
動脈硬化を起こして脳梗塞になる人は、心臓血管の病気(心筋梗塞や狭心症)になるリスクも高くなります。これらは循環器病と総称されるとおり、血管の健康状態や血圧は、両者に共通する危険因子です。
定期的なドックや健診で健康状態をチェックし、生活習慣病の予防や高血圧の管理、肥満などの体質改善に努めてください。

 

総合東京病院の「小児脳神経外科センター」は、難易度の高い脳神経外科手術で多くの治療実績を誇ります。対象とするのは小児脳腫瘍。とても種類が多い一方、それぞれの症例数自体が少ないため、治療経験を十分に積んだ医師の数が限られてしまう領域です。センター長を努めるのは福島孝徳先生。センター部長を酒井淳先生が務め、1人でも多くの患者さんを救うために全力を尽くしています。
小児患者さんの将来を考え、最も良い選択肢となるような手術を行う。
それが「小児脳神経外科センター」の理念です。

「小児脳神経外科センター」とは

—小児脳神経外科センターについてご説明願います。

「小児脳神経外科センター」は、2歳から成人するまでの脳疾患、特に脳腫瘍の患者さんの診察、治療を行います。小児を対象とした脳神経外科センターです。
全国にいる福島孝徳先生の患者さんのうち手術が必要な小児の場合は総合東京病院に来院いただき、当センターで集中的に手術を行っています。海外からの患者さんも受け入れています。
診断や手術は福島先生と私が一緒に行い、治療が困難な症例も、安全、確実な手術を提供できるよう努めています。

小児の脳の病気と治療の難しさ

—小児と大人では、手術や治療の難しさも違ってくるのでしょうか?

小児の脳の病気は、大人とは違って全体としての病気の種類がとても多く、しかもそれぞれの症例数が少ないという特徴があります。そのため、早期発見するにしても治療経験を積んだ医師の数自体が限られており、適切な診断や治療を受けるのが難しいという問題があります。手術自体にそれほどの違いはありませんが、小児の場合は成長過程にあるため、手術だけすれば良いというわけにはいきません。脳手術が終わったあとも、放射線治療、化学療法、内分泌学的治療(ホルモンの治療)が必要とされることがあるので、そこまで考えた治療が必要とされます。
内分泌治療など術後のフォローアップが必要な場合は、患者さんが暮らす地元の病院と連携をとりながら治療を進めることもあります。
総合東京病院では脳卒中などの患者さんのリハビリテーションにも力を入れて社会復帰を支えていますが、小児についても、それぞれの術後に応じたリハビリテーションを行っています。
小児の場合は、症状がはっきり出てから脳腫瘍が見つかるケースはまれです。どうも具合が良くないらしいけれど、何が原因なのか分からないということが少なくありません。
大人であれば頭痛や吐き気、手足の動きがおかしいという自覚があって、病院で調べてみたら脳腫瘍が見つかるということも多いのですが、小児だと少々具合が悪くてもそのまま遊んでいたりしますから、発見が遅くなり、治療も受けずに成長してしまうことがあるのです。
頭蓋底腫瘍は、目の動き、視力、聴力、顔の動き、顔の痺れ、口のまわりの動き、飲み込みにくい、などが主な症状です。小児のホルモンに関係する腫瘍であれば、低身長または高身長のような症状として体の成長に支障が出たり、全身倦怠感が出てくることもあります。診断する医師の知識と経験が大事です。
当センターは症例数の少ない難しい手術でも、多くの治療実績があります。CTやMRIなどで検査をした結果、手に負えない患者さんの手術を他院から依頼されることもあります。大人の脳腫瘍も含めて、総合東京病院脳神経外科の強みと言えるでしょう。


□ 総合東京病院

住所/東京都中野区江古田3-15-2
●野方駅、練馬駅、桜台駅、高円寺駅、中村橋駅から
 無料シャトルバス運行 
●中野駅、練馬駅、江古田駅から路線バス

 

□ 総合東京病院 脳神経外科

脳卒中などで救急搬送される患者さんの急性期治療から、頭痛、めまい、手足の麻痺、しびれ、頭部打撲、その他脳の病気の診療、脊椎脊髄治療、治療困難とされる脳腫瘍の頭蓋底手術などを行っています。
■ 福島孝徳 脳腫瘍センター
■ 小児脳神経外科センター
■ 脳血管内治療センター
■ 脊椎脊髄センター

    [脳神経外科の主な対象疾患]
    ◎脳梗塞 ◎くも膜下出血 ◎未破裂脳動脈瘤 ◎脳腫瘍 ◎顔面けいれん ◎三叉神経痛 ◎脊髄疾患など
    [小児脳神経外科センターの主な対象疾患]
    ◎頭蓋咽頭腫 ◎神経膠腫 ◎髄芽腫 ◎胚細胞腫 ◎海綿状血管腫 ◎その他の脳腫瘍

 

福島孝徳先生からのメッセージ

総合東京病院 脳神経外科 小児脳神経外科センターと酒井淳先生について

総合東京病院は私の脳外科手術の主要拠点です。私の手術拠点は全国に14ヵ所ありますが、その中でも総合東京病院には「福島孝徳脳腫瘍頭蓋底センター」と「小児脳神経外科センター」があり、脳血管内カテーテル治療などを行う「脳血管内治療センター」「脊椎脊髄センター」とともに、高度な診療体制が組まれています。
特に全国的に小児科の診療が手薄になる中、「小児脳神経外科センター」の存在は特筆すべきです。全国の15歳までの小児患者さんで脳腫瘍手術が必要な場合は、すべて総合東京病院の「小児脳神経外科センター」で手術をしています。
総合東京病院「小児脳神経外科センター」を担う酒井淳先生は、非常にまじめです。100人いる私の弟子のうち10指に入るだけでなく、小児脳神経外科の領域では酒井先生がトップ。患者さんと家族に優しく、思いやりがあり、親切、誠実です。実力も抜群です。
「小児脳神経外科センター」では、酒井淳先生とタッグを組んで診療と手術に取り組んでいます。
私のモットーは『手術一発全治』。若き日の渡邉一夫先生(南東北病院グループ総長・メディコンパスクラブ理事長)とは、ともに脳神経外科医として当時の日本人の死因トップだった脳卒中の治療に全力を尽くし、義兄弟とも言える強い絆が生まれました。
渡邉一夫先生が率いる南東北病院グループは、今や日本でも最大級。設備もスタッフも非常にハイレベルです。2004年には日本最大級のPETセンターをスタートさせ、2008年には陽子線治療を日本の民間病院で初めて実現させました。総合東京病院の「小児脳神経外科センター」も、酒井淳先生が担ってくれています。南東北病院グループは世界から注目されているんですよ。

福島孝徳先生のご紹介


メディコンパスクラブ名誉理事長の福島孝徳先生は、世界で最も有名な脳神経外科医の1人。「神の手」、「ラストホープ(最後の切り札)」と讚えられるほどの圧倒的な手術成績を誇ります。
米国ノースカロライナにある福島先生のオフィスには、毎週150通にも及ぶたくさんの手術依頼の手紙やメール、ファックスが寄せられます。そのうちの半分以上は、ほかの医師に「もう駄目だ」と言われ、すがる思いで書かれたものだそうです。
そのため、福島先生は日本中を駆けまわり、手術に明け暮れています。緊急電話で突然連絡を受けて飛行機で各地を移動し、それからまた東京の病院で手術。1人でも多くの患者様を救うために、1日1日全力を尽くしています。
福島先生が渡米したのは48歳のとき。すでに開頭範囲を最小限に抑えるキーホール・オペレーション(鍵穴手術)によって世界的な知名度は高く、アメリカの南カリフォルニア大学から教授就任の依頼が届いたのです。
「その後、デューク大学、ウエストバージニア大学など全米各地の病院で特に難易度の高い脳腫瘍の手術を手がけてきました」
これまでに行った脳外科手術は27,000人以上。そのうち脳腫瘍は24,000人、脳血管手術は3,000人に及びます。かつては“no man’s land”(手の付けられない場所)と呼ばれていた頭蓋底の脳幹、傍脳幹腫瘍手術も4,000人に及ぶ世界1の実績です。
福島先生はチーフになってから40年間、毎年600人以上の脳外科手術を続けています。欧米で一番忙しい脳外科医が200~300人とされますから、この数字がいかに凄いかが想像できます。
休む時間もないほどの仕事ぶりですが、手術の依頼は一向に減りません。日本だけでも300人以上が福島先生の執刀を待っています。
小児脳腫瘍の症例も数多く手がけてきました。一番多いのは頭蓋咽頭腫。これは全脳腫瘍に占める割合が3%ほどですが、これまでの手術件数は300人に及びます。松果体腫瘍は約0.5%ほどのごく稀な脳腫瘍で難しい手術になりますが、これまで150人の手術をしてきました。小児の脳室内腫瘍が200人と、まさに世界でトップの症例数と成績です。