メディコンパス/2023年12月取材:Southern TOHOKU Healthcare Group.

南東北病院グループ / 認知症への取り組み(3)

酒と認知症の関係について
生活習慣病と認知症を予防し、介護を必要としない老後を長く保つために

メディコンパスクラブ 理事
東京クリニック 総合診療科
北本 清 先生
Kiyoshi Kitamoto M.D., Ph.D.
杏林大学 名誉教授
 
専門分野
総合診療内科、腎・高血圧科

専門医 等
日本内科学会認定内科医、日本腎臓学会認定医

Profileプロフィール
1940年 東京生まれ
1966年 慶應義塾大学医学部卒業
1971年  慶応義塾大学大学院医学研究科内科学卒業
1971年  慶応義塾大学医学部内科学教室助手
1978年 杏林大学医学部第1内科講師(腎臓、膠原病)
1980年 同 助教授
1990年 杏林大学病院腎透析センター長
1992年 杏林大学医学部第1内科教授
1998年 杏林大学医学部総合医療学主任教授、総合診療科科長
1999年 三鷹医師会理事(2007年3月まで)
2000年 杏林大学病院副院長
2003年 杏林大学医学部附属看護専門学校校長
2006年 杏林大学名誉教授
現・東京クリニック総合診療科

高齢者が生涯に認知症になる確率

 60歳以上の認知症のない高齢者が、死亡するまでのいずれかの時点で認知症を発症する確率はおよそ55%。つまり、2人に1人という推計があります。
 認知症のリスク因子は、基本的には脳血管障害と同じものがオーバーラップします。
 アメリカの研究レポートを見ると、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙というリスクが、認知症発現に関係し、それらのリスクが複数個重なると、認知症になるリスクも高くなることが報告されています。
 特に喫煙は、たばこを吸わない人に比べて認知症リスクが約2倍になるという研究報告もありますから注意してください。
 糖尿病も要注意です。糖尿病があると、アルツハイマー型認知症も、血管性の認知症も、ともに発症率が高くなることが日本の研究でも示されています。

適度の飲酒は長寿につながる?

 酒は「百薬の長」と昔から言われてきましたが、飲酒は長寿につながるのでしょうか?
 飲酒と健康については実際に研究が行われており、まったくお酒を飲まない人に比べ、適度な量の飲酒をする人は、男女ともに、がん、循環器疾患、急性心筋梗塞、脳血管疾患による死亡リスクが減少することが分かっています。
 ここで言う適度とはどのくらいの量かというと、1日に日本酒1合、または、ビール大瓶1本程度までが目安とされています。
 適度の飲酒が良い理由としては、米国の研究が参考になります。
 内容を要約すると、

適度飲酒の人は、飲まない人に比べて主要心血管疾患(MCA)発症リスクが約20%低かった。
PETで脳を検査した結果適度の飲酒の人のほうがストレスに関連する脳内神経ネットワーク活性の減少が認められた。
すなわち、偏桃体でのシグナル伝達が有意に減少することが判った。それがMCAリスク低減の因子の一つであることが示唆された。
 (Mass General Bringham Biobank)

というものです。
 これに対して、適量を超えて飲み過ぎると、死亡リスクは上昇し、がんの発症リスクも高まります。例えば、1日の飲酒量がアルコール46g以上(日本酒2合以上)だと、膵臓がん発症リスクが1・57倍になるという研究報告もあります。

アルコールと認知症

 次に、アルコールと認知症の関係について考えてみましょう。
 研究によれば、週75g未満というのが、認知症発症リスクが最も低くなります。
 このときのアルコール摂取量は、1週間当たりビール(500ml)で約3・5本、日本酒で約3・5合未満に相当します。(表1)
 一方、アルコール摂取量が増えるに従って、脳のなかの海馬が萎縮するリスクは高くなります。一般的に適量といわれる量であっても、萎縮のリスクは増加してしまうようです。(表2)
 海馬とは、記憶や空間学習能力に関わる働きをする脳の器官で、萎縮してしまうと、記憶の障害などにつながります。
 酒は人生を楽しむためのツールのひとつです。アルコール性認知症は認知症全体の4%ほどではありますが、やはり飲み過ぎは禁物です。

認知症の予防について

 認知症を予防するためには何をしたら良いでしょうか。
 アメリカ国立衛生研究所の資料によれば、2型糖尿病のコントロール、高血圧と脂質異常症の改善、望ましい体重の維持、社会参加と知的な活動、運動の習慣、果実と野菜の多い健康的な食生活、禁煙、うつ病の治療などが挙げられています。加えて、良質な睡眠、難聴の改善などを心がけてください。
 余暇の利用としては、人と交流するような社交ダンス、コーラス、チェスなどが良いとされています。
 運動は効果的で、1日1時間歩くだけで認知症発症リスクが約30%減るという研究もあります。だらだら歩くよりも、少し早歩きで散歩するような有酸素運動がおすすめです。
 運動は、1人でやるよりも皆と一緒にやるスポーツのほうが良いとされています。そうした点からもゴルフは良い運動です。認知症機能改善にも効果がありそうだという報告もあります。
 最近はMRIを使った脳画像の研究も進んでおり、特に高齢者では運動すると脳全体の体積が増えたり、記憶に関係する海馬が大きくなることが報告されています。
 筋肉や運動機能は、意外なことに認知症とも関わりがあるのです。認知症はもとより、生活習慣病全般を予防し、介護を必要としない老後を長く保つ意味でも、運動することを習慣として上手に取り入れてください。



2023 年9 月9 日(土)・10 日(日)に開催された軽井沢での「第10回メディコンパスクラブ会員懇親会」セミナーの様子。
「人生第二ラウンドに備えるための健康講座 その10」と題して北本清先生が「酒とのつき合い方」をテーマに講演を行いました。翌日には、軽井沢72ゴルフ北コースにてゴルフ会を開催し、懇親を深めました。

認知症特集 目次

 
はじめに 一般財団法人 脳神経疾患研究所 最高顧問 吉本 高志 先生
認知症の早期診断と最新治療 総合東京病院 もの忘れ外来 羽生春夫 先生
脳と腸 認知症との関わり 東京クリニック 認知症・もの忘れ外来 堀 智勝 先生
酒と認知症の関係について 東京クリニック 総合診療科 北本 清 先生
アルツハイマー病の解明と画像診断 東北創薬・サイクロトロン研究センター 所長 松田博史 先生