メディコンパス/2025年2月取材:Southern TOHOKU General Hospital

一般財団法人脳神経疾患研究所 附属 総合南東北病院 院長
紺野 愼一 先生に聞く 総合南東北病院の新たな展開

総合南東北病院と脊椎脊髄外科の最新情報

高度な救急医療、がん治療など患者さんから選ばれる
最適な医療の提供に努めてまいります。

南東北病院グループ 総合南東北病院 院長
紺野 愼一 先生
Shinichi Konno, M.D.,Ph.D.
東京クリニック 整形外科 医師
福島県立医科大学 名誉教授

 

専門分野
整形外科/脊椎脊髄外科、腰痛の病態と治療、脊椎低侵襲手術

● 日本整形外科学会(専門医、認定脊椎脊髄病医)

所属学会 等
•日本整形外科学会 名誉会員
•日本脊椎脊髄病学会 名誉会員
•日本腰痛学会 理事
•日本脊髄障害医学会 理事
•日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会 名誉会員   
•東日本整形災害外科学会 名誉会員
•国際腰椎学会(ISSLS)会員 ほか
Profileプロフィール
1984年 自治医科大学卒業
1984年 福島県立会津総合病院
1986年 福島県立田島病院
1993年 スウェーデン・ヨーテボリ大学整形外科
1994年 福島県立医科大学医学部整形外科学講座 助手
1998年 福島県立医科大学医学部整形外科学講座 講師
2007年 福島県立医科大学医学部整形外科学講座 准教授
2008年 福島県立医科大学医学部整形外科学講座 教授
2014年 福島県立医科大学附属病院長兼副学長兼理事
2017年 福島県立医科大学副学長兼理事
2020年 福島県立医科大学副理事
2023年 福島県立医科大学医学部整形外科 名誉教授
一般財団法人脳神経疾患研究所 常任顧問
2024年 総合南東北病院 院長 現在に至る

紺野愼一先生は、福島県立医科大学教授、副学長を経て、2024年、総合南東北病院の院長に就任されました。
診療科は整形外科で、脊柱管狭窄症などの診療はもとより、脊椎内視鏡手術の開発者として脊椎脊髄外科をリードする存在です。
また、慢性腰痛の病態研究に取り組み、痛みの心理社会的な要因を多職種で協力して探り、
治療へと繋げていくリエゾン療法の先駆けでもあります。
紺野先生のこれまでの多岐にわたる実践と、総合南東北病院の今後の展望についてうかがいました。

腰痛、脊椎を専門とする整形外科医としての歩み

整形外科医となり、腰痛、脊椎を専門とする

— 整形外科を専門に選んだ理由や経緯などをうかがえますか。

整形外科の道を選んだのは、先輩医師の影響です。私の出身の自治医科大学には、卒業後、出身の県に戻って地域医療を担う義務があります。そのため、当時は専門を決める際に、先輩と相談して決める習慣がありました。私は福島県出身で、7期生になりますが、福島には関節痛や腰痛を訴えるお年寄りが多いため、整形外科医が欲しいという話が出ていました。それで整形外科に進んだのが正直なところです。しっかりと患者さんを治療できる医者になれるなら、専門にこだわりはなく、求められる役割を果たしたいと考え、整形外科に進みました。
整形外科医になって、福島県立喜多方病院、県立田島病院(現在の県立南会津病院)に赴任しました。県立南会津病院に移ったのは、脊椎外科医としてトップクラスの手術をされていた菊地臣一先生に誘われたのがきっかけでした。そのおかげで整形外科のなかでも、特に腰痛、脊椎を専門とすることになり、技術を深めることができました。
その後はスウェーデンのヨーテボリ大学に留学し、帰国後は福島県立医科大学で整形外科学の臨床と研究に取り組むことになります。

— 福島県立医科大学では、教授職、副学長などを務められ、日本の脊椎脊髄外科をリードされてきました。紺野先生がご専門とされてきた内容の一部を簡単にご紹介いただけますか。

手術に関しては、脊柱管狭窄症に対して人工靱帯を用いる制動術、患者さんの身体の負担を軽減する内視鏡手術、慢性腰痛に関する研究や、その治療のためのリエゾン療法などが挙げられるでしょうか。 慢性疼痛を診断する上でのサポートツールの開発なども行いました。世界的に著名な先生方と出会い、指導を受けた経験がそこに活かされていると思います。

福島県立医科大学副学長から総合南東北病院新院長へ

— 総合南東北病院とは、どのような関わりをお持ちなのでしょうか。

当院を率いる渡邉一夫総長には、若い頃から大変お世話になり、その人間性、リーダーシップには敬服し、影響を受けてきました。「すべては患者さんのために」。言葉だけではなくて、自ら実践し、若い医師を指導する姿を目の当たりにしていましたから。45年前、何もなかったところから病院をつくり、東北、首都圏、大阪にわたる医療グループを一代で築き上げました。おそろしいほどのパワーです。人を惹きつける人間的な魅力も素晴らしい。
私が福島県立医科大学の教授時代には、総長にお願いして寄附講座をつくっていただきました。若い整形外科医が専門的に勉強できるよう、「スポーツ医学」の講座や、「外傷学講座」を開設していただきました。
ちょうど当院に外傷センターを立ち上げる時期で、現在は新百合ヶ丘総合病院(南東北グループ)の外傷再建センターを担う松下隆先生らとともに、郡山に日本一の外傷センターをつくろうと話し合って意気投合したのも良い経験でした。そうしたいろいろなご縁があり、現在、私は総合南東北病院の院長を務めさせていただいております。
前院長の寺西寧先生は外科医としてとても力があり、人望も厚いリーダーでしたから、後任の院長として、患者さんに求められる病院であり続けられるよう努力してまいります。

 

脊柱管狭窄症の新しい手術の開発と普及

脊柱管狭窄症の制動術

 
— 脊柱管狭窄症については、どのような手術をするのでしょうか。
 
脊柱管狭窄症は薬物や運動、ブロック療法などの保存療法で症状が改善することもありますが、重い症状を伴う馬尾型では手術となるケースがあります。手術では除圧術に加え、椎骨の不安定性があれば骨や人工骨を移植して固定する固定術を併用することもあります。
しかし、固定後に別の椎骨がすべってしまうなど、固定術には弊害もあることから、1990年代に福島県立医科大学で腰の骨の制動術を行うようになり、脚光を浴びました。腰の骨と骨の間に人工靱帯を入れて、固定ではなくて制動するという考え方の手術です。
たとえば、腰椎の4番目と5番目のところが不安定になると、腰痛が出てきます。4番目の骨がずれると、ずれたところで腰の神経を圧迫し、足に坐骨神経痛のような症状がでます。それを防ぐために余計な動きを抑えます。そもそもはフランスで開発された手術ですが、私たちは開発者と交流して技術を吸収し、福島医大で数多くの手術を行い、その後ほかの大学でも行われるようになっていきました。
 

脊椎内視鏡手術

— 腰椎の内視鏡手術は、紺野先生が世界に先駆けて考案し、開発されたとうかがいました。どのような手術なのでしょうか。
 
脊椎内視鏡手術は、フランスのモンペリエ大学の著名な先生の論文に触発されたことから、現地で手術を見学させていただき、日本に戻ってきてから、内視鏡を用いた脊椎固定術ができないかというテーマで研究し、手術を考案しました。腰椎前方アプローチを内視鏡で行う低侵襲の手術です。論文を英語で発表し、広めていきました。福島県立医科大学の講師の時代です。
この内視鏡手術は特殊な技術でしたから、仲間とともに富士宮のトレーニングセンターを使って実践的な技術を学ぶ研究会を開いたところ、全国から若い医師、大学の講師や助手の先生方が集まってくれました。それが日本脊椎内視鏡低侵襲外科学会に発展し、現在に至っています。
脊椎内視鏡手術は国も認めてくれて、2006年に保険収載され、今日広く行われるようになりました。
また、腰椎に対する内視鏡手術は、後方、前方アプローチともに、専門的なトレーニングを要するため、技術認定医制度もつくりました。安心して手術をまかせられる資格を整備することができました。
 

慢性疼痛に対する多職種によるリエゾンアプローチ

心理社会的な要因による痛み

 
— 慢性的な痛みには、原因がよく分からないものもあるのでしょうか。

一般的に整形外科は手術の設計図を描いて、それをもとにきれいに手術をするものと考えられています。しかし、今日では〝痛み〟の心理的な要因にも目を向けて治療を行うようになってきました。
慢性腰痛には、検査をしても原因が分からないケースが多くあります。器質的な疾患(脊椎の変形など)がないにも関わらず痛みを訴える人が多いのです。
1990年代になると、「再手術を繰り返しても良くならない、それは腰が悪いのではなくて、心理社会的な要因によるものではないか」と、国際学会で発表され始めました。
また、腰痛がない人でも実に76%に椎間板ヘルニアがあることが分かり、無症候性のヘルニアがとても多いということも明らかになっていきました。
では、無症候性のヘルニアの人と腰痛に悩む人との違いは何か。研究で分かったのは、腰痛に悩む人は、神経に対するヘルニアの圧迫度が強い、あるいは、心理社会的な要因によって症状が強く出てくるということです。
具体的には仕事に対するストレス、結婚生活がうまくいっているか否か、鬱傾向があるか、不安があるか、そういう要因が関与しているということです。腰痛は単に腰が悪いと思われがちですが、実際はそんなに単純な問題ではないのです。
そこで重視されるようになったのが、慢性腰痛、慢性疼痛に対するリエゾンアプローチ(リエゾン療法)です。
 
— リエゾンアプローチとはどのような治療ですか。
 
リエゾンというのは連携という意味で、福島県立医科大学では1998年頃、日本ではじめて開始しました。
リエゾンアプローチでは、整形外科を受診された慢性腰痛の患者さんの心理社会的な背景を掘り下げていきます。精神科の先生に協力していただいて、患者さんが生まれたときまで遡り、成育歴、現在の状況を聴きとっていくと、いろいろなことで悩んで、それが腰痛、肩凝り、首の痛み、関節痛などの症状として出てくることが分かりました。
そのストレスを軽減したり、あるいはじっくり話を聞いてあげて、「それが理由で私は痛いのか」と納得していただくだけで、かなり良くなるということも分かってきました。
リエゾン療法は、国際学会でも注目され、新聞でも紹介されたのですが、大変手間と時間のかかるアプローチなので、ほかの大学にまで広がるにはなかなか難しいところがありましたが、最近では、厚労省もこうした痛みの治療に力を入れるようになり、日本に慢性疼痛センターが20数カ所くらいつくられています。
整形外科やペインクリニック単独で診るのではなくて、精神科、リハビリ、看護師、理学療法士など、多職種で連携して行う集学的医療体制によって痛みの治療をしていきます。しかし、リエゾン療法が実施できる施設はまだまだ限られています。私は日本学術会議の一員として慢性疼痛に対する国の対応を強化するよう提言してきました。


痛みと脳の関連

 
— 脳と痛みの関係も研究が進んでいるそうですね。
 
現在、脳の機能障害が実は精神医学的な痛みときわめて密接に関連しているということも明らかになってきました。慢性腰痛の人に、脳の萎縮、脳波異常が見られることが分かってきたのです。痛みを抑制するシステムはもともと脳で無意識に働きますが、痛みを抑制する脳内のドーパミンシステムの機能低下が慢性疼痛によって起きてくるのです。つまり、不安や鬱やストレスがあると、ドーパミンシステムの働きが落ちてしまう。これがPETや特殊なMRIを使った画像検査で分かってきました。
総合南東北病院のMRIは性能が高く、きれいに脳も映りますから、渡邉一夫総長に協力していただき、運動刺激、感覚刺激、認知過程などに伴う脳活動領域について、大学で研究させていただきました。

 

総合南東北病院新院長として

3次救急病院指定を目指して

— 総合南東北病院は、救急への対応を強化されているそうですね。
総合南東北病院では3次救急の指定病院を目指して準備を進めています。郡山市には他に3次救急の病院がひとつあるのですが、市の周辺を合わせるとおよそ65万人の人口があり、十分な体制とは言えません。幸い、行政や関係者の皆さんにもご賛同をいただいており、さまざまな手続きを踏みながら実現を目指しています。
 そのためには、まず病院として、人的にも、質的にも、救急医療をさらに充実させることが必須です。当院では、救命救急士、救急医療の医師を増員し、今年中に救急センターをつくる予定です。手術は現在でも年間11000件以上行っていますが、3次救急になるとさらに増えますから、今年中に手術室を2つ増設する予定です。また、外傷を専門とする整形外科の著名な医師が2人着任される予定ですから、さらに外傷の患者さんが増えます。若い医師が手術の見学にくることも多くなり、そのなかには、「ここで一緒に働きたい」と考える方も増えてくるでしょう。すると、さらに力のある病院になっていくと思います。
 

本院新築移転の今後の展望

 
— 総合南東北病院の今後について、展望をお聞かせください。
新しい病院の土地を確保し、具体的な構想を練っています。基本方針は、コロナ感染症や震災の経験を踏まえ、「新興感染症への対応」「高度・広域救急への対応」「災害医療への対応」を3つの柱としています。より充実した医療環境を整え、最新の設備と快適な療養環境が実現されるよう努めていきます。
 また、新病院は、郡山市が取り組む「メディカルヒルズ郡山基本構想」の一翼を担います。まちづくりに向けた協議会もつくられており、病院と地域住民が一体となって魅力ある新しいまちづくりに取り組んでいきます。
 総合南東北病院は、脳神経外科、外科がとても充実し、陽子線治療やBNCT(ホウ素中性子捕捉療法)による先進的ながん治療など高度な医療を誇る総合病院です。病院創設以来、「すべては患者さんのために」というスピリットが育まれてきました。そうした精神を受け継ぎながら、患者さんはもとより、地域の皆さんや病院で働く職員も一層満足できる病院となるよう、今後も力を尽くしてまいります。
 

 



南東北グループの中心拠点(郡山市)/総合南東北病院、南東北がん陽子線治療センター、南東北BNCT研究センターなど主要施設が集中しています

南東北病院グループ 一般財団法人脳神経疾患研究所 附属 総合南東北病院

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