総合東京病院 消化器疾患センター センター長
松橋 信行 先生に聞く 消化器疾患センターの取り組み
炎症性腸疾患まで幅広く対応する消化器疾患の診療と予防
南東北病院グループ 総合東京病院 消化器疾患センター センター長
松橋 信行 先生
Nobuyuki Matsuhashi, M.D.
東京大学医学部卒業
● 1999年 日本消化器内視鏡学会学会賞受賞
● The Best Doctors in Japan 2020-2021 選出
【 専門分野 】
消化器内科全般、炎症性腸疾患
● 日本消化器病学会認定消化器病指導医・専門医
● 日本消化器内視鏡学会認定消化器内視鏡指導医・専門医
● 日本内科学会認定内科医・内科指導医
1982年 東京大学医学部医学科卒業
1982年 東京大学医学部附属病院内科研修医
1984年 東京女子医科大学第2病院内科助手
1985年 自治医科大学消化器内科シニアレジデント
1986年 東京大学医学部附属病院第三内科医員
1989年 東京大学医学部附属病院第三内科助手
2000年 東京大学医科学研究所内科非常勤講師(兼任)
2002年 横浜市立大学医学部第三内科非常勤講師(兼任)
2004年 NTT東日本関東病院内視鏡部部長
2006年 NTT東日本関東病院消化器内科部長(兼任)
2017年 NTT東日本関東病院副院長(兼任)
2022年 総合東京病院消化器疾患センター センター長
【 所属学会 等 】
•American Gastroenterological Association
•American Society for Gastrointestinal Endoscopy
•日本内科学会
•日本消化器病学会
•日本消化器内視鏡学会
•日本カプセル内視鏡学会
•日本消化管学会
総合東京病院消化器内科では、食道・胃・大腸などの消化管と、肝臓、胆嚢、膵臓の疾患を中心に、患者さん個々の体の状況を踏まえ、生活の質を重視した診療を専門的に行っています。2022年4月からは、「消化器疾患センター」として体制を発展させ、特定疾患とされる炎症性腸疾患の専門外来も開設、多くの患者さんの診断と治療に努めています。
消化器疾患センター長を務める松橋信行先生に、同センターの診療内容や、炎症性腸疾患の症状、治療法について、お話をうかがいました。
総合東京病院 消化器疾患センター
— 消化器疾患センターについてご紹介ください。
総合東京病院消化器疾患センターでは、消化器(食道・胃・大腸など)を中心に、肝臓、胆嚢、膵臓の疾患の診断治療を幅広く、専門的に行います。
消化器疾患に対しては、薬物治療、内視鏡治療、手術治療、放射線治療などから、患者さんに応じた適切な治療法を選んで提供しています。
早期胃がんや食道がんに対する低侵襲の内視鏡治療実績も豊富です。
— 体に負担の少ない内視鏡検査が可能だと伺いました。どのような検査が可能なのでしょうか。
当院の上部内視鏡検査では、経鼻あるいは経口内視鏡を用い、患者さんの希望に応じて鎮静剤を使用しながら、痛みやつらさがないように検査を行っています。
また、大腸内視鏡検査も、苦痛のないように患者さんの希望に応じて鎮静剤を用いながら安全に検査を行っており、細径の内視鏡、処置用の内視鏡、拡大観察用の内視鏡などを適宜使い分けています。
内視鏡以外にもCT、MRI、超音波検査などもよく行いますが、どれも非常に体にやさしい低侵襲の検査です。がんに対してはPET—CT検査も可能です。
— 胆管や膵管についての内視鏡診療も行っているのでしょうか。
内視鏡を用いて胆管、膵管を造影する胆膵内視鏡(ERCP)も行っています。
総胆管結石に対するERCPを用いた治療や、膵管狭窄に対するステント治療も可能です。
内視鏡の先端の超音波診断装置で行う超音波内視鏡(EUS)検査や、従来は開腹手術でしか治療できなかった多くの疾患に対する超音波内視鏡を用いた低侵襲治療も行います。
— 肝炎や肝硬変などの肝疾患についてはいかがでしょう。
ウイルス性肝炎、肝硬変の診断および治療も行っています。
抗ウイルス薬によるC型肝炎やB型肝炎の内服治療、肝生検、また肝臓がんの集学的治療としてラジオ波焼灼術、動脈塞栓療法や動注療法、薬物療法など病態に合わせて治療方針を決定しています。
特定疾患—炎症性腸疾患の専門外来の開設へ
炎症性腸疾患について
— 専門外来として診療されている炎症性腸疾患とは、どのような病気なのでしょうか?
総合東京病院では、2022年4月から「炎症性腸疾患外来」を開設しました。
私は消化器疾患のなかでも、特にこの炎症性腸疾患を専門とし、多くの新薬の治験にも参加してきました。
炎症性腸疾患とは、具体的には潰瘍性大腸炎やクローン病などを指し、厚生労働省の特定疾患(いわゆる難病)に指定されています。若い人で発症することが多く、近年増加傾向にあります。
炎症性腸疾患を分かりやすく説明すると、腸の免疫機構の異常による病気です。免疫システムがちょっとした変調をおこして、その結果間違って自分を攻撃してしまうわけです。
炎症性腸疾患の原因はまだ詳細には確定されていませんが、欧米型の食生活との関連が疑われます。つまり、動物性脂肪、飽和脂肪酸、糖類が多い食事が増え、それによって腸内細菌に変化が起きていることが関連していると考えられています。
ほかに、口の中の虫歯菌の関与もあるようです。
潰瘍性大腸炎とクローン病
— 潰瘍性大腸炎、クローン病、それぞれの症状について教えてください。
潰瘍性大腸炎の典型的な症状は、あるときから次第に下痢になって、排便後も残便感を感じたり、夜間にもトイレに行くようになり、便に血が混じるようになって、腹痛や熱が出たりするようになります。
クローン病は、腸閉塞による強い腹痛や、腸に穴が開いて緊急手術が必要となる激しい症状で発症する人もいますが、はじめは大した自覚症状がない人もいます。
この病気は肛門の病変が多いので、痔と間違えることもあります。
— 診断と治療は、どのように行うのでしょうか。
両疾患とも内視鏡やCT等で病変を調べることで診断されます。
また、長期の経過を経て病変部にたちの悪いがんができてしまうことがあるので、経過を監視することも重要な課題です。
ひと昔前までは治療薬の選択の幅が狭かったのですが、最近は新しい薬がどんどん出てきています。
これらの疾患は体の免疫機構が自分の腸組織を誤って攻撃してしまうことで起こるため、新薬の多くは免疫機構の暴走を止める働きをするものです。創薬技術の進歩で目的の免疫関連分子の作用を強力にブロックすることが可能になり、治療効果が示されています。
潰瘍性大腸炎とクローン病の成り立ちには多くの共通点があり、これら新薬を含めた治療薬の多くは両方の疾患に効果を発揮します。ただし、これひとつで完璧に有効という薬はまだありません。
新薬が利用できるようになり選択の幅が広がったことは朗報ですが、従来からの薬剤の重要性は変わりません。最初に使う薬剤として最も適切なのは従来薬であることが多いと言えます。
治療は薬物治療が中心ですが、クローン病では、食事を減らして、その分ある種の栄養剤を飲むようにすれば一定程度炎症を抑える効果があることも分かっています。
臨床を通して一人ひとりの患者さんと向きあう
東大法学部から医学部へ
— 松橋先生は、東京大学文科一類に進学されてから医学部に入り直されたと伺いました。どのような経緯で医師を目指されたのでしょうか。
私は横浜市で育ちました。ちょうど水俣病などの公害問題が社会に拡大していた時代で、そうした問題の解決を通じて人びとに貢献できるような進路を選びたいと、法学部を志望し、東京大学文科一類に入りました。
ところが、大学に入ってからさまざまな人と出会うなかで、自分は医師として社会に貢献したいと考えるようになり、もう一度受験し直して、翌年、東京大学医学部に入りました。
医師という存在には、幼い頃から親近感がありました。父方の祖父の祖父、つまり高祖父が武士で、南部藩の城詰めをしていたのですが、明治維新のなかで爵位を返上して医師になり、地域医療に尽力したと聞かされていましたから。そんなことも医師を選び直す一因になったと思います。
医学部卒業後はさまざまな道があり、選択に迷いましたが、最終的には児玉龍彦先生(現 東京大学先端科学技術研究センター名誉教授)らのお誘いで、東京大学医学部第三内科の消化器研究室に入れていただきました。
消化器疾患と免疫との関係
— ご専門の炎症性腸疾患は、免疫に関する研究の臨床への応用ということになるのでしょうか。
当時の第三内科では、血液内科の権威(前日本医学会会長)である高久史麿先生が教授を務めておられました。シクロスポリンという新薬が出た直後で、高久先生のもと、骨髄移植の成績が大幅に改善された時代です。シクロスポリンという薬は、免疫細胞のなかのT細胞を選択的に抑制する薬です。
この薬は移植において有用なだけでなく、免疫の関係する病気にも効く可能性があるのではないかと注目されていました。そこで、消化器の領域における炎症性腸疾患に対して、シクロスポリンによる治療を日本ではじめて行うなどしました。
— 東大第三内科では、さまざまな先生方から刺激を受けられたそうですね。
第三内科の消化器グループには、日本消化器病学会の理事長を務められた菅野健太郎先生をはじめ、非常に立派な先生方がおられました。
私と同期の中釜斉先生は、現在国立がん研究センターで理事長を務め、後輩にあたる中島淳先生は、横浜市立大学主任教授を務めるなど、日本のがん領域において活躍されています。
また、日本肝臓学会理事長をされた井廻道夫先生は新百合ヶ丘総合病院消化器・肝臓病研究所の所長であり、金森博先生は東京クリニックの院長を務めておられます。
当時から第三内科の先輩や仲間たちの存在は大きな刺激であり、医師としての姿勢を学ばせていただきました。
— さまざまな新薬が誕生する一方で、新薬がとても高額になってしまうという側面には危惧すべきところがあるということですが。
より効果的な治療法を開発していくのは、医療の発展として当然の方向です。しかし、これから先の日本においては、いかにして世の中の人々全体がきちんと医療を享受できる体制を維持するかという視点も重要です。国の財政や医療保険制度が崩壊してしまっては、将来の患者さんが困ることになります。
そうした視点も忘れずに、地域の先生方や当センターのスタッフと力を合わせ、一人ひとりの患者さんと向き合っていきたいと考えています。皆さまのご理解とご鞭撻をお願いします。
内視鏡検査の重要性と消化器疾患の予防について
内視鏡検査の重要性
— 消化器疾患では、やはり内視鏡検査が重要になるのでしょうか。
消化管の検診については、早期がんを含めて内視鏡が一番のポイントです。
PET(ペット)はもちろん有用ですし、患者さんの負担が少ないというメリットは大きいのですが、早期胃がんには向いていません。大腸についても、小さいものが見つかることはありますが、どうしても洩れてしまうことがあります。
PETなどで疑わしいところが見つかれば、内視鏡を使って精査し、診断をすることになります。
— 消化器系の病気をチェックするとき、一般的にどのような点に注意すべきでしょうか。
まずはドックでひととおりの検査を受けていただくことが望まれます。一度受ければ、どこに問題があるか、将来どんな問題が起きる可能性があるかがかなり分かってくるので、それに基づいて自分にあった検査メニューをセットして定期的なドックに役立ててもらうのがいいと思います。
たとえば、胃にピロリ菌があると分かれば、除菌治療をお願いします。退治すればがんが減ることは間違いありません。ただし、除菌後も定期的に胃の検診はお願いしたいと思います。
胃がんや大腸がんなど、多くの病気で注意しておきたいのは、家族歴です。両親、おじいちゃん、おばあちゃんなどが、どういう病気になったか。家族や血縁者は遺伝や生活環境が似ていることが多いので、注目すべき点です。
大腸がんについては、便潜血検査も結構役に立ちます。検査で陽性になれば、やはり内視鏡(大腸カメラ)をお願いします。大腸ポリープはがん化の可能性があるので、内視鏡での治療が有用です。
消化器系疾患予防のポイント
— 消化器疾患を予防するポイントがあれば、アドバイスいただけますか。
最も重要なのは禁煙ですね。それが一番のポイントです。喫煙はあらゆるがんでリスクが高まります。先に触れた国立がん研究センターでは、中釜理事長就任後、程なくがんの予防における受動喫煙を含む喫煙の有害性についての声明を出しています。
食生活では、いわゆる加工食品やファーストフードは摂りすぎに注意してください。動物性脂肪、特に飽和脂肪酸や糖がたくさん入っているので、炎症性腸疾患、肝臓の脂肪肝、がんにも関係してきます。
飲酒は少量であれば必ずしも大きな問題はないのですが、量が多すぎると肝臓、膵臓などに多くの問題を引き起こします。ただ、少しでも飲むとすぐに顔が赤くなってしまうような体質だった人の場合は、慣れてくると飲めるようになってきますが、飲み続けていると食道がんになってしまう可能性が非常に高くなってしまうので注意が必要です。
便秘は、体に悪い影響を及ぼすこともあるので、改善が求められます。
下痢については、この頃、急に便がゆるくなったという場合は、何か病気の可能性を疑い、一度調べたほうがいいでしょう。
便の出血については、痔なのか、ポリープなのか、原因を明らかにしたほうがいいです。
最近注目されているのは、腸内細菌です。腸内細菌がいろいろな病気に関連していることは間違いないので、この領域は今後ますます重要になっていくでしょう。
南東北病院グループ 医療法人財団 健貢会 総合東京病院
■ 〒165-8906 東京都中野区江古田3-15-2
【 診療科 】
■ 内科
■ 消化器内科
■ 糖尿病・代謝内科
■ 循環器内科
■ 呼吸器内科
■ 脳神経内科
■ 精神科
■ 脳神経外科
■ 外科・消化器外科
■ 呼吸器外科
■ 整形外科
■ 皮膚科
■ 形成外科・美容外科
■ 耳鼻咽喉科
■ 泌尿器科
■ 眼科
■ 婦人科
■ 麻酔科
■ リハビリテーション科
■ 放射線治療科
■ 放射線診断科
■ 小児科
■ 救急科
■ 外来化学療法室
【 消化器疾患センター 】
2022年4月から消化器内科は消化器疾患センターとして態勢を発展させました。常勤医師は3名から6名に増え、消化器疾患に対する対応の体制が質的にも規模的にも強化されました。外科との連携も緊密で、消化器疾患に対する薬物治療、内視鏡治療、手術治療、放射線治療などから患者さんごとに適切なものを選んで提供いたします。その際、検査・治療に伴う苦痛や不安に対しても十分に配慮し、安全、安心な医療を実践しております。
[ 外来診療 ]
消化器疾患の専門的な検査・治療が必要となった際はご受診ください。
当院は2022年3月31日付で地域医療支援病院の承認を受けており医療機関間の連携が従来以上に重要となっておりますので、初診の際は他の医療機関や健診センターからの紹介状をご持参ください。ただし、救急の場合は紹介状はなくても構いません。
要な検査・治療が済んで安定した状態となればまたご紹介いただいた元の医療機関にお戻りいただくなどして、円滑な地域医療に貢献して参ります。
[ 専門外来(炎症性腸疾患外来) ]
増加傾向が目立つ潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患に対する専門外来を開設しております。担当医師は多くの新薬の治験に参加してきた経験も豊富です。
炎症性腸疾患は厚生労働省の特定疾患に指定されており、多くの患者さんが認定を受けて医療費の補助を受けておられます。
[ 入院診療 ]
胃、食道、大腸などのがん(特に早期がん)、肝臓がん、膵がん、胆道がん、大腸ポリープ、炎症性腸疾患、胆管結石、胃・十二指腸潰瘍、食道静脈瘤、膵のう胞など諸種の消化器疾患の非手術的検査治療を必要最低限の入院日数で行います。
[ 施設認定 ]
● 日本消化器病学会認定施設
● 日本消化器内視鏡学会指導連携施設
● 日本肝臓学会特別連携施設
● 練馬駅、野方駅から無料シャトルバス運行
●中野駅、練馬駅から路線バス運行
●お車をご利用の方:駐車場をご利用頂けます